「日本にそういうのなかったよね。ついにやるんだ」
──今回、アジアの8つの地域から18アーティストが、日本から17アーティストが出演しました。アジアから招聘するアーティストを選ぶ基準はありましたか?
藤澤 : 日本で刺さるかどうかは考えました。特定の地域のリスナーにすごく聴かれるアーティストもたくさんいます。それを目当てに呼ぶこともできたけど、日本では刺さらないなと思ったものは、いったん今回は呼ばなかったです。そこはパフォーマンスとかも含めて、自分たちが実際にみたもので精査していった感じです。
──日本のアーティストは?
藤澤 : 海外のひとがわからない音って、やっぱりあるんです。日本でメジャーでも海外でわかってもらえない音楽が存在する。そこが面白い。今回、日本のバンドは、わかってもらえるひとたちを呼びました。明確にそれを目指しました。あえてこれを混ぜてみるみたいなのもなしで。サウンドはちょっと違うんだけどアニメの関係でアジアで売れているアーティストもいるんですが、そこを混ぜるのも今回はやめました。
──そうして選ばれた日本のアーティストたちですが、今回のおそらく日本人が半数以下という環境で、どんな手応えが得られたのでしょうか?
藤澤 : 全員が全員、手応えを得られたわけじゃなくて、たぶん手応えを得られなかったアーティストもいるんですよ。それもまた面白いです。例えばこっちがいろんなデータを基に呼んでたとしても、やっぱり所詮データじゃないですか。一般のひとも見られるものでいえばSpotifyのどこの国のひとが聴いているというデータとかで、日本よりも他の国のリスナーのほうが多いアーティストはいます。でもそれは所詮データです。Spotifyで聴いているリスナーに僕らがアピールしても、そのひとたちが来てくれるわけでは絶対ないし。だからデータがあったとしても、実際に跳ねるかどうかはまったく別の話です。スマホで音楽をめっちゃ聴くひとでもフェスやライヴハウスに行ったことのないひともたくさんいますしね。それが見えたのも面白かった。
──海外のアーティストへのオファーはどう進めたのでしょうか?
藤澤 : こういうことをやるために、これまで実際に海外に足を運んで繋がりをつくっていった部分が大きいです。アーティスト直接というよりも、繋がった要人たちに直接声をかけていったという感じですかね。
──どんな反応でしたか?
藤澤 : やっぱり肝は「日本にそういうのなかったよね」です。みんなわかってるんです。「そういうのなかったよね。ついに日本でやるんだ」って。それがすごい伝わったんです。発表してからは海外のプロモーターやプロデューサーやバンドからめっちゃ連絡がきました。〈フジロック〉や〈サマーソニック〉にゲストとして呼ばれるのと、〈BiKN〉のようなイベントは、やっぱり違うんです。

──ほかに協力していただいたかたは?
藤澤 : 今回準備するにあたって、海外の現地でプロモーターをやってるひとや、日本だと (寺尾) ブッタさんとか、過去に海外のバンドをたくさん見てきた渋谷O-EASTの店長の岸本さんとか、いろんなひとを頼って。とにかくまずは会いに行って話をするところから始めました。でも、それを面白がってくれるひとって、そんなにいなくて。それこそ国内ではブッタさんぐらい。あとはいないです。海外の現場にもいないしね。
寺尾ブッタ : BIG ROMANTIC ENTERTAINMENT / 大浪漫娛樂集團・代表。青山と台北でライヴハウス〈月見ル君想フ〉を、東京と台北でブッキング・エージェンシー〈浪漫的工作室〉を、音楽レーベル〈BIG ROMANTIC RECORDS / 大浪漫唱片〉を運営。
──日本にいるひと以外では?
藤澤 : たとえばタイにいるGinnさんにも協力してもらいました。タイ在住で日本とタイの音楽交流活動をされているかた。自分でバンドもやられている。もともとはタイのいろいろなイベントに、うちらを呼んでくれていたひとです。Ginnさんはずっと危機感を持ってやっていらしたので。
Ginn : タイ・バンコク在住。日タイ音楽交流レーベル〈dessin the world〉主宰。「日本の音楽をタイに。タイの音楽を日本に」をコンセプトに活動。
どうしてかというと、タイでどんどんフェスが増えているのに、そういうプレゼンの場に日本人がいないんです。こういうのって、ある部分、枠の勝負で。イベントをやる側ならわかると思うんですけど、例えば、日本にはバンドがいっぱいいるから4つ入れて韓国のバンドは2つ、みたいな枠をまず決める、という発想です。で、それが時を経て逆転していくわけです。日本が2で韓国が4に。
アーティストの数でいったらインディー/メジャーに限らず日本は圧倒的で、クオリティーは高くて、広いジャンルに渡って存在しているから、もともと日本のアーティストが呼ばれていたのは納得いくじゃないですか。いまでもそれは変わらないのですが、フェアな立場で交流できない部分だったりとか、身近に感じられないみたいなことがどんどん増えていったんでしょうね。結果、枠へのアプローチも少なくなって、プレゼンスが低くなっていったのかなぁと。
Ginnさんは、呼んだアーティストのマネージャーとかに、そういう状況を言ってたんでしょうね。アジア中からプロモーションしに来てるのに日本人はいないと。僕も言われました。言われれば「確かに」って思うけど、「それは良くないね」って口では言えるけど、じゃあ本気でやれるか、って自分で自分に問うわけです。海外で本気でやるって難しいじゃないですか。日本でやってるだけで余裕がないし。結局、海外のフェスに呼ばれました、大きいステージに出ました、盛り上がりました、良かったね、で終わっちゃう。でもそれは点でしかない。そうじゃなくて、日本の音楽をアジアで芽吹かせるつもりはありますか? みたいな覚悟を問われる。
いまこんなに日本のアーティストが面白いのに、枠がないのヤバいなって。こういうのは呼んで呼ばれてが基本なのはどこも同じです。誰がそれを本気でやるのかであって。僕は (日本のアーティストを海外のフェスに) 出したいし、(アジアのアーティストを日本に) 呼びたい。だから、やることにしました。

単純に言ったら「倍になる」話
──さきほどインバウンドの来場者が2割という話がありましたが、海外でのお客さんに向けたプロモーションは、どうやったんですか?
藤澤 : 基本はアーティスト導線です。アーティストに告知してもらう。それが一番いいので。そういえば、チケット代が高いっていう言葉は、そっちからは一切出なかったです。
──1日のフェスで出演者が35組。日本のほかのサーキット・イベントと比べると、少ないという印象を持たれても仕方ない部分はありました。その替わり、ひとつのバンドの持ち時間が40〜50分ありました。あの尺の長さはほんとうに嬉しかったです。(大トリの落日飛車 Sunset Rollercoasterのみ70分。)
藤澤 : 当初の計画はそうでもなかったんですが、途中で、今回のお客さんはソリッドなファン・ベースになりそうだから、それで30分とかはないな、と思って切り替えました。全アーティストを観てほしいというのもありましたし。尺があれば20分ずつでも観られるじゃないですか。このキャパの会場で観られるのは日本だけだからね、っていうアーティストも結構いるんで。向こうだったら万単位の会場でやってるひとたちが、400人、500人の会場でやる。やっぱりまだ日本に行きたいっていうアーティストは多いんですよ。簡単に行けないって思っているのもある。だからすごくミックスされて謎空間ができました。謎空間はね、やっぱいいです。ゾクゾクしますよ。
──当日会場周辺にいたお客さんたちの頭の上に「なんだこれは?」っていう吹き出しがついているようでした。変な空気で最高でした。
藤澤 : 単純に言ったら「倍になる」話だと思うんです。日本のバンドや日本の音楽関係者にとって。集客の悩みとか、もうちょっとウケたいとか、あるじゃないですか。でも観に来てくれる人間が変われば全然変わるんです。いつもライヴに来てくれるひとたちの数と同じくらい違うひとたちが来ると思ったら、違うことができるし、可能性がある。
僕はそういうことを極端に書きたかったから、アーティストに向けて、居場所を見つけられるかもしれないぞ、日本が居場所じゃないなと思ってるミュージシャンもぜひお客として観に来てほしい、って書いたら、身内の子らからすごく怒られました。上からだって。でもいつもボヤいてるやん、客が増えないって。そういうひとのためにやってるし、いま超チャンスが来てるってことを知って欲しいという意味で言ったんですけど、ちょっと言葉が足らなかったですね。
ひとが違えばライヴの盛り上がりかたもぜんぜん違うんです。日本のアーティストでお客さんが半分以上海外というアーティストもいます。うちの所属のLucie, Tooも渋谷とかでライヴをやるとそうなります。お客さんの国もバラバラ。示し合わせてとかじゃなくて、バラバラに勝手に来る。すごくないですか。それは世のなかのインバウンドのニュースと同期してるわけです。なんか日本でやることないかなって調べてたら、たまたま知ってるアーティストのライヴが渋谷であるらしい。俺、渋谷に泊まってるんだけど、っていう話です。
