「音楽」を「データ」で「買う」は時代遅れ? ── 連載『音楽とダウンロードの現在』 第1回 イントロ

「音楽」を「買う」ということ
2015年のApple Musicの日本上陸以降、ここ日本でも音楽ファンの多くは、Apple MusicやSpotifyなど音楽のサブスクリプション型ストリーミング・サービスを利用しているという状況ではないでしょうか。利便性・料金も含めて「音楽の出会いの場」が大きく広がったということを考えれば、いち音楽ファンとしてはよろこばしいところではあります。
ここ数年、そんな世相を反映してか、音楽の現在というような話には、サブスクリプション・サービスの影響とフィジカルの復権(アナログ・レコード、テープ、最近ではCDも)ばかりが出てきますが、そんな時代にあってもOTOTOYはあえて音楽ダウンロードのデジタルストアという業態にこだわっています。これは単に「創業から……」という話ではなく、ここにはOTOTOYとして確固たる意志があります。音楽データを「買う」(売る)という行為には多様な音楽シーンを支えるための機能、そしてアーティスト、そしてユーザーにおいてもさまざまな有益なことがあると信じているからです。
ということで、OTOTOYでは今年後半にかけて、この記事のシリーズを通じて、音楽のダウンロード、データの形で音楽を「売る」というのはどういうことなのか、その楽しみ方やシーンに対する貢献、文化的なアーカイヴの重要性など、さまざまな角度から提案していきたいと思っています。そこには、間違いなく音楽好きこそ納得してくれる、データという形態で音楽を「買う」ということの重要性があることを示せるのではないかと思っています。
まず、第1回は、そのイントロダクションとして、前半ではダウンロード・ストアとサブスクリプション・サービスとの違いをひとつ柱に、そして後半では配信音源の現在の音質のスタンダードについて、OTOTOYがなにを目指してダウンロード・ストアを運営しているのか紹介していければと思います。
そもそもダウンロード・ストアとはなんなのか?
OTOTOYは音楽メディアであり、もう一方は音源データのダウンロード・ストアでもあります。CDやカセット、レコードなどフィジカルの音楽商品を売るショップと同じく、OTOTOYはいわばデータを売る小売店です。商品となる音楽をデータの形でレコード会社やアーティストから預かり、これをインターネットを通じて売っています。

ダウンロードとサブスクはどう違うの?
ダウンロード・ストアとサブスクリプション・サービス、同じ音楽データを扱う業態ですがその立脚点に大きな違いがあります。まずサブスクリプション・サービスは音源データの販売をしているわけではありません。サブスクリプション・サービスは、そのサービスに加入している期間だけ、そこにある楽曲を聴くことができるという機能を提供しています。ストアとサービスを提供するという業態の大きな違いです。どちらかと言えばサブスクリプション・サービスはいわゆるフィジカルのCDショップよりもレンタルCDに近いとも言えます。一定期間聴くことはできますが、その作品の所有はできません。

お金の流れ | 音楽の聴き方 | 音楽(データ)の所有権 | バックアップ保存 | |
---|---|---|---|---|
ダウンロード | 作品ごとに購入 | 音楽データをダウンロードし、それをPCやプレイヤーで聴く | あり | できる |
サブスクリプションサービス | サービスと月額で契約 | サービスにアクセスして、音楽データを呼び出し、オンラインで再生 | なし(サービス期間中に聴く権利があるだけ) | できない |
サブスクの機能にも「ダウンロード」があるよね?
ほとんどのサブスクリプション・サービスには、お気に入りの楽曲をオフライン(インターネットと繋がっていない状態)で聴く、もしくはストリーミングのサーバーとのやりとりによるデータ使用量を抑制するために「ダウンロード」機能があります。しかしサブスクリプション・サービスにおける「ダウンロード」は、スマートフォン内に音源データを保存をしている状態ですが、一時的なものなので、ユーザーがそのサービスを解約したり、またはなんらかの理由でレコード会社やアーティストがサービスから音源を消した場合、その音源はあなたが使っているスマートフォンやPCなどからも消えてしまいます。

データを所有することで可能になるバックアップ
対してダウンロード・ストアで一度買ったデータは、もしストアやサービスから音源が消えても、適切な保存がなされていれば自分のアーカイヴとしていつでも聴くことができます。手元にあるCDやレコードは廃盤になっても聴き続けることができるのと同じです。またダウンロードで買った音源はさまざまな形で任意の形でバックアップすることもできます(外付けハードディスクやSSD、USBメモリやNASなど)。ユーザーの個人的な利用の範囲内で分散して保存することで消えるリスクを最小限に抑えることもできます。例えばアーティストの不祥事のたびに話題になりますが、レコード会社が自主規制的にサブスクリプション・サービスやダウンロード・ストアでの配信を停止することがあります。あたりまえですが、この場合、ユーザーがそれ以前に購入し所持している音源は、いつでも聴くことができます。
ここにあくまでも音楽ファンが自らの意志でお金を払うことに対して、大きな違いがあることがわかるのではないでしょうか? 購入した音源は、例えばプラットフォームとしていたサービスがなくなっても音楽は手元に残ります。

買った音源データはダウンロードしたあとずっと聴けるの?
適切な保存(バックアップなど)がなされていれば、基本的に購入したユーザーはその音源をずっと聴くことができます(例えOTOTOYサービスが終了したとしても……)。ちなみに、今後もこのコーナーではさまざまなタイプのアーカイヴの仕方を記事にて紹介する予定です。またOTOTOYは一部のレーベルの商品を除いて、再ダウンロードの制限はしていないので、サービスが存続し、なんらかの事情でサーバーから音源データが削除されない限りは再ダウンロードすることができます(但し、SONY保有の音源に関しては、契約により原則10回までのダウンロードとなっています)。
多様な音楽キャリアをサポートすることができる「音楽」の「購入」
サブスクリプション・サービスは、ユーザーの1再生ごとにアーティストやレーベル側に入る仕組みです。それぞれのサービスの違いなども含めて諸説ありますが、1回の再生に対して、約0.2円から1円前後と呼ばれています。数百円稼ぐのに、それなりの再生回数を要することになります。世界中にファンを持つアーティスであればこの数は苦も無いことでしょう。ファンが多ければ多いほど有利になるシステムです。もちろん、簡単に曲が拡散されるといったプロモーションとしての効果など、サブスクリプション・サービスには、アーティストが音源を託すことで直接的な売上げだけを上げるだけでは計れない利益があることもたしかです。
ただOTOTOYは、大勢のファンがいることだけがそのアーティスや音楽の価値であるとは考えていません。サブスクリプション・サービスではなかなかまとまった売上げの上がらない、さまざまな活動方法、音楽性の多様なスタイルが成り立つようにダウンロードが活用されればと思っています。例えばあるアーティストの作品が何億回と再生されることはなかなか難しいかもしれませんが、ただ、そのアーティストに対して、世界中に100人単位のファンがいて、彼らが数千円の音源データを買うことによって、そのアーティストのキャリアが成り立つというライフスタイルもあると、OTOTOYは信じて止みません。それぞれのアーティストのキャリアのスタイルに合わせて、多様な市場があることの方が良いとOTOTOYは考えています。フィジカルの作品に比べて商品の制作費の面でハードルが相対的に少ない音楽データの販売、それによってその活動を応援できるというのはひとつダウンロード・ストアの魅力ではないかとOTOTOYでは思っています。
リスナーが所有する音源のより自由な楽しみ方の担保、さらにはアーティストやレーベルの利益などを考えてもシーンの構成にダウンロード・ストアが音楽シーンや文化に貢献できることはこのようにさまざまな方向であるのではないかと思っています。