
新曲『Rabbit』を高音質で!
LITE『Phantasia』に収録されている「Ghost Dance」のミュージック・ビデオを観終わった後、5分も経っていないのに驚いた。体感時間では10分以上はあったはず。ショート・アニメの様に物語を追う映像だったのもあるかもしれないが、音楽だけで聴いても同じように感じただろう。言葉はなくとも、伝えたい感情がある。その思いが走り出すかのような作品だった。今作『Rabbit』ではむしろ、感情的というよりも計算的。構造的で緻密な音の重なりを感じる。なのに、元々バンドの音が持っていた壮大なドラマ性も消えていない。
日本のみならず数多くの海外ツアーの経験をもつLITE。そしてこの取材もまたアメリカ・ツアーに経つ2日前に行われた。知的で紳士的でありながらも、凶暴性も併せ持つLITEの音楽。その中心人物である武田信幸の頭の中にはどのような映像があるのだろうか? 今までの海外ツアーでの反応や、彼らが行く先々で感じたこと、そしてこれから音楽を生み出していく上での姿勢や、模索中の手法について、Gtの武田とBaの井澤惇に話を伺った。
インタビュー & 文 : 水嶋 美和
LITE / Rabbit
日本を代表するポスト・ロック・バンドLITEが、BOOM BOOM SATELLITESの作品などを手掛けてきた三浦カオル氏を共同プロデューサーに迎えてレコーディングした新曲を配信でリリース。オトトイでは、高音質HQD版と通常のMP3で配信中!
【報告】
LITEは新曲『Rabbit』の売上を、東北地方太平洋沖地震の義援金として全額寄付することを決定しました。その他LITEとして出来る限りのことをしていこうと思います。(HP参照)
【menber's Comment】
迷信は信じないけど偶然は運命だと思っています。
今このタイミングで日本を離れる偶然。
マイク・ワットが言ってました。
パンクとは人との繋がりそのものだと。
そんなパンクを実践しに行ってきます。ー武田 信幸(ギター)
LITE(武田 信幸 × 井澤 惇) INTERVIEW
――今回のアメリカ・ツアーは、海外ツアーとしては何度目になりますか?
武田(以下、T) : ヨーロッパに3回、アメリカに2回、アジアは1回だから、7回目ですね。
――2003年に結成し、海外での活動に目を向け始めたのはいつ頃からですか?
T : 2005年ぐらいです。日本に観光で来ていたアイルランド人のパトリックという人が日本滞在中に俺らのライヴを見に来てくれて、すごく気に入ってくれて、その後に飲みに行ったんですよ。熱く語り合う中、彼がヨーロッパでレーベルをやろうと考えてて、その第1弾アーティストとしてLITEをリリースしたいと言ってくれたんです。すごく行動力がある人で信頼できるし、良い巡り合わせでしたね。
――海外のライヴ・ハウスと日本のライヴ・ハウス、文化的に違うところはありますか?
井澤(以下、I) : 日本の方が精度は高いですね。スタッフだったり、ハコの環境だったり、ブッキングだったりとか。でもその分ハコ代やノルマが課せられるんですけど、アメリカやヨーロッパではそれがない代わりに、自分達でPA機材や楽器を全て持ち込んで、やっとライヴが出来る状況になります。

――日本に近い、アジアの方はどうですか?
T : マレーシア、台湾、シンガポールを回りましたが、どちらかというと日本に近いですね。
――最初のヨーロッパ・ツアーでは音源も何も無い状態だったんですよね。反応ってどうでしたか?
T : 初めて観る人がほとんどだったんですけど、すごく盛り上がり収穫の大きいツアーでしたね。やってやったぜ感がすごいありました。
I : イギリスのステージに立って音を出した時は感動しましたね。海外でライヴをするという、自分達の中にあった大きい目標がひとつ叶ったので嬉しかったです。感動が大きすぎてライヴの反響がどうだったのかは覚えてないけど、良かった気がします(笑)。
T : 海外のツアーで初めにすごい驚いたことは、お客さんの雰囲気やリアクションの違いですね。海外のお客さんってうるさいんですよ、とにかく(笑)。曲をやってる時もやってない時も騒いでる。でもウェルカムな感じはすごい伝わってきました。
I : 日本のお客さんってライヴを見にライヴ・ハウスに来るじゃないですか。海外では、酒飲むついでにライヴを見るっていう、もっとラフな感覚なんですよね。バーとライヴ・ハウスが一体化してる感じ。
――2009年のアメリカ・ツアーを記録したブログを拝見しました。締めの言葉に「不思議なことに、その陽気さ、フレンドリーさ、ツアーの充実感、そしてこのフィット感。これらは、海外で初めて感じるものでした。」とありましたが、アメリカでの反応はどうでしたか?
T : アメリカは東海岸と西海岸と2回行ってるんですけど、想像以上にCDも売れたし充実感がありましたね。
I : 僕らの中の重要人物で、ミニットメン、ストゥージーズのベーシストのマイク・ワットという人がいるんですけど、彼が自分のツアーに僕らを巻き込んでくれてるんで、アメリカ・ツアーの最初のライヴからチケットが完売してたり、そういう良い環境の中でやらせてもらってますね。
――マイクさんと付き合うきっかけになったのは?
I : パトリックです。
――パトリックさん、何者なんですか(笑)?
T : 本人は全然有名じゃないんですけど、マイク・ワットと友達だったんです(笑)。友達というかパトリックがマイクの熱烈なファンで、マイクはファンとの付き合いをすごい大事にする人だから仲良くなったんでしょうね。
I : パトリックにせよマイクにせよ、ひっぱってくれた人が居るからこういう風にやれてるんだと思います。
T : 日本でも2007年にストレイテナーがツアーにひっぱりだしてくれたり、そういう縁に恵まれてますね。
――メンバーの中では井澤さんが一番後に入ったんですよね? 入る前はどういうは印象を持っていましたか?
I : 僕がLITEに入った時には、今のような形のインスト・バンドとしてやっていこうっていうのが固まったところだったんですよね。加入する前に大学のサークル・イベントで対バンしたことがあって、ライヴを見て、歌が無いのが衝撃的でした。かっこいいなと思っていたら、ベースが抜けて、サポートで誘われて、正式に加入したという感じです。
――LITEは大学のサークルで結成されたバンドなんですか?
T : いや、俺とギターの楠本は同じ小学校で地元が一緒で、中学校の時から「あいつギターうまいらしいぜ」みたいな話は聞いてたんですけど、特にバンドを組むこともなく、20歳ぐらいの頃に「そろそろやるか! 」という感じで組み始めました。ドラムの山本は高校からの付き合いで、その時からもう既に一緒バンドを組んでて、みんなで千葉から上京して活動し始めたんです。で、山本が通ってた大学が井澤と同じで、バンドに誘ったという感じですね。
このまま突き詰めて行きたい
――海外ツアーの数も多く、様々な経験をしてきたバンドだと思うんですが、その中で何か影響を受け、大きく変化したことってありましたか?
T : 海外ツアーの影響は音楽にはそれほどないです。自分達の中で新しいと思えることをやりたいから、エフェクターを変えてみたり電子音を入れてみたり、表現方法を模索し続けているので、音楽性は変わっているように聴こえるかもしれません。でも中心の軸は変わらないですね。色んなかっこいいバンドを見てきて、それを超える為にどうしようかとは考えるけど、それによって軸がぶれることもないです。
――新作について聞かせてください。リミックスをDE DE MOUSEにお願いする事になったきっかけは?
T : 『Illuminate』のリリース・ツアーの時に、DE DE MOUSEに出演してもらったんですけど、サプライズで「Image Game」のリミックスを作ってライヴをやってくれて。原曲よりめちゃくちゃかっこいいじゃん! って(笑)。
I : ツアーの3日間だけじゃ勿体なすぎるので、今回正式にオファーしました。
――今作、Tシャツにダウンロード・コードを付けてリリースするっていうのは新しい試みですよね。あと、7インチ・アナログ盤も。色んな形でリリースしようと思ったのはなぜですか?
I : 新曲を世界中の人が聴けるように、まずダウンロードでリリースしようと考えました。
T : 7インチ・アナログ盤は今回のアメリカ・ツアーに合わせて作りました。前にアメリカに行った時、何回も「アナログ盤は無いのか?」って聞かれたんですよね。
I : それとレコード・プレイヤーが無くても聴けるようにと、Tシャツにもダウンロード・カードを付けることにしました。

――曲をつくる時はどういうところから始めますか?
T : 前はバンドでジャムって作っていて、それだけでした。今はフレーズから作ったりもしますね。
――やり方を変えたのはなぜ?
T : ジャム・セッションだけど新しいものが生まれてこない。先に進めなくなっちゃったんです。
I : ジャムで作ったネタを4人で膨らましていく方法だったんですけど、やっぱり行き詰ったり意見がバラバラになったりするんですよね。そこを、『Illuminate』あたりから武田がPCで曲の骨組みを作ってきて、バンドでアレンジして、またそれ武田が持って帰ってまたPCで作るという方法になりました。
T : でもある程度、曲が出来てからフレーズを作ることもあるし、今は色々な方法を試している状態ですね。
――計画的になったという感じでしょうか?
T : 無駄が減ったというか、効率的になりましたね。ジャム・セッションからじゃないと生まれないグル―ヴや、1人では考えられない展開もやっぱりあります。でも逆にそれだけだと勢いに任せて細かい所に目がいかなくなるんですよね。もう少し練ればもっとよくなるフレーズもそのままで進めてしまったり。そういうところをちゃんと考えていこうと思ったんです。「ジャム・セッションで曲が生まれるのがLITE」ていう概念があったんだけど、違うアプローチでもLITEはLITEなんだなって安心して、色んなことに自信を持ってできるようになりました。今、すごい広がりつつある。

――まだ色々と試したいことはありますか?
T : 今の方法がやりやすいので、しばらくはこのまま突き詰めていきたいですね。
I : 去年の10月から3週間ぶっつづけでツアーを回ったんですけど、『Rabbit』はそのツアーに向けての新曲として作り始めたんです。でも出来る直前で、僕のレーベルからリリースしている海外バンドの来日ツアーに同行することになって、曲作りから途中で僕が抜けてしまって。だから、ツアーの初日からやっていたんですが、ツアー中にどんどん変わっていきました。だからその時に観た人からすればだいぶ変わって聴こえるかもしれない。
――ツアーの数が多いですよね。これは意図的なんでしょうか?
I : よく言われるんですけど、これが当たり前になっちゃってピンと来ないんですよね。でも長いツアーを終えた後はもうお腹いっぱいで。絶対やりたくないって思います。でも落ち着いて、時間が経つとまたやりたいとは思ってるんです。ツアーの日程は自分たちで決めてるんですけどね、ツアーをやらないとはならないですね(笑)。
――アメリカ・ツアーから戻った後、活動の予定は決まってますか?
T : 次のアルバムを制作中です。『Phantasia』、『Turns Red EP』をリリースした後、すごい葛藤があったんですね。生まれ変わって新しいものを作りたいと思ったんです。でも新しいことをやろうとすれば、痛みを伴うし、否定的な意見もある。それでも自分達のやりたいことを傷だらけになりながらやり続けて、「これでいいんだ」という手ごたえを感じ始めたのが『Illuminate』なんですよ。次に出るアルバムは、その『Turns Red EP』、『Illuminate』を通して、Hop、 Step、 JumpのJumpで、今やっていることの完成形ですね。
――Hop、 Step、 JumpのJumpも気になりますけど、その次も気になりますね。
I : またHopに戻るかもしれない(笑)。
T : Flyで飛ぶっていう可能性もありますよ(笑)。
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Live information
- 2011/04/01(金)@大阪 大阪名村造船所跡地
- 2011/04/03(日)@大阪 梅田Shangri-La
- 2011/04/25(月)@東京 新代田FEVER
PROFILE
LITE
Jun Izawa (Bass)
Kouzou Kusumoto (Guitar)
Akinori Yamamoto (Drums)
Nobuyuki Takeda (Guitar)
2003年結成、4人組インスト・ロック・バンド。今までに2枚のフル・アルバムと2枚のEP、1 枚のスプリットCDをリリース。独自のプログレッシブで鋭角的なリフやリズムからなる、 エモーショナルでスリリングな楽曲は瞬く間に話題となり、また同時にヨーロッパのレーベルからもリリースし、ヨーロッパ、アメリカ、アジア・ツアーなどを成功させるなど国内外で注目を集めている。 そして昨年10月に立ち上げた自主レーベル<I Want The Moon>より、音響系、ポスト・ロックの巨匠で、TORTOISE、The Sea and CakeのJohn McEntireを迎えて、 シカゴのSoma Studioにてレコーディングされた5曲を収録したミニ・アルバム『Illuminate』を2010年7月7日にリリースし、2度目となるFUJI ROCK FESTIVAL'10へ出演など、近年盛り上がりを見せているインスト・ロック・シーンの中でも、最も注目すべき存在のひとつである。