2022/09/24 13:00

やりたいことが増えて満足してないです──バンドになったcolormalが目指す色彩と普遍

colormal
photo by tsuda honori

イエナガのソロ・ユニットとしてスタートし、コロナ禍の只中にバンドになったcolormal。バンド2作目のEPとして8月にリリースされた『anode』は、持ち前のメロディ・センスがさらに研ぎ澄まされ、聴き手の心を掴む歌メロが詰め込まれた会心作となった。一方で、彼らのライヴを観ると、J-POP的な広くあまねくへの親しみやすさだけではない、いかつい楽器音や構成のいびつさに驚かされる場面も多い。そしてそうでありながら、依然として、確実に歌が良い。バンドになる経緯や今作の制作について話をきくと、それらはすべてそうなる理由があったことがわかる。バンド移行後、初のメンバー全員インタヴューをお届けします。

colormal最新EP『anode』をロスレスで (OTOTOY購入特典あり)

INTERVIEW : colormal

イエナガ (Gt/Vo), マツヤマ (Ba), やささく。(Gt), 田井中 (Dr)
photo by tsuda honori

サポート・メンバーとしてほぼ固定されていたとはいえ、なぜイエナガは彼らをメンバーとしてバンドになろうと思ったのか? そもそもメンバーたちはイエナガの作る曲やイエナガ自身のことをどう思っていたのか? イエナガといえば、真剣なイエナガとふざけたイエナガ(おそらくそれは照れ隠し)がいて、たまにどっちがどっちかわからなくなるが、最近その配分が変わってきてないか? そしてイエナガ、歌上手くなってないか? ききたいことはたくさんある。さっそくはじめよう。

インタヴュー・文 : 高田敏弘
写真 : tsuda honori / ニイミココロ

なんか信じられんくらいカッコいいバンドがおるぞ

──イエナガさんには、2年前、colormalがソロ・ユニットだったときにお話をきいています。今回はまず、イエナガさん以外の3人の音楽遍歴や音楽活動歴についてお聞きします。順番は「さまよう」のMVでも再現されている、イエナガさんと出会った順で。最初は田井中さん

宅録とバンド、両岸を軽やかに渡り歩く喜びを分かち合う、colormal

田井中 : 僕の音楽遍歴はとてもオーソドックスです。小学校の高学年でORANGE RANGEがとても流行っていて、そこではじめて意識的にアーティストを好きになって音楽を聴くようになりました。そこからスピッツやBUMP OF CHICKENやYUIに。高校からは軽音楽部に入ってASIAN KUNG-FU GENERATIONやRADWIMPSをコピーしてました。当時はラジオをよく聴いていて「SCHOOL OF LOCK!」の〈閃光ライオット〉第1回グランプリのGalileo Galileiを大好きになって。で、Galileo Galileiきっかけで彼らが影響を受けた洋楽を聴くようになり、そこからインディーに傾倒していったと。

──ものすごい王道ですね。次は、やささく。さん

やささく。: めっちゃ恥ずかしいっすねこれ(笑)。音楽を聴きはじめるようになったのは、小学校5年生くらいにWalkmanを買ってもらってから。そのときはJ-POPを広く浅くでしたが、中学生になってから家のパソコンにBUMP OF CHICKENの『jupiter』が入ってるのを見つけて。それを聴いたのがきっかけでバンブが大好きになって。中学3年間はバンプばっかり聴いてました。中3の頃にギターをはじめて高校から軽音楽部です。高校生のときはずっとELLEGARDENのコピーバンドをしてました。大学でブルース研究会に入って、そこでNUMBER GIRLやSUPERCARを知って。洋楽もそこで教わりました。

──最後にマツヤマさん

マツヤマ : 小学6年生くらいのとき、当時大学生だった従兄弟がよくオススメの曲を教えてくれて。それで、L'Arc〜en〜Cielがめちゃくちゃ好きになりました。中学生になってからは、L'Arc〜en〜Cielや、Janne Da Arcとかシドといった日本のヴィジュアル系のバンドばっかり聴いてました。高校に入ってからはインターネット・カルチャーに触れる機会が多くなって、ニコニコ動画、東方アレンジ、岸田教団&THE明星ロケッツというルートを経由して、NUMBER GIRLに出会いました。NUMBER GIRLを聴いて信じられんくらいカッコいいと思って、そこからどっぷりオルタナの道です。大学ではコピバンはやらずに、曲が作れるサークルの先輩とかに「ベース弾かせてください」って声をかけて、バンドをいくつもやってました。

colormal - さまよう(colormal - wandering)
colormal - さまよう(colormal - wandering)

──みなさんがcolormalを知ったきっかけや、イエナガさんとの出会いを教えてください

田井中 : SoundCloudをあさっていたら “まばゆい” が流れてきたのが、イエナガを知ったきっかけです。『merkmal』が出たあとにイエナガが「バンドでライヴをするかもしれないのでやってくれるひとがいたら」みたいなツイートをしてたので、そのときにDMで連絡しました。

やささく。: 大学のときにイエナガと対バンしたことがあって、“まばゆい” が入っている最初のEPはずっと聴いてました。『merkmal』を出した直後にイエナガと会う機会があって、そのときに「ライヴしないって言ってるけど、もしするんやったらギターを弾かせてほしい」と言いました。でも実は2018年12月のcolormalの最初のライヴは自分のバンドのライヴと被っていて、その日は3ピースでやったんです。

マツヤマ : 僕はヒトリエがむっちゃ好きで。ヒトリエがツアー中に聴いてた音楽みたいなプレイリストが公開されていて、それを流してたら、なんか信じられんくらいカッコいいバンドがおるぞと。それがcolormalの “まばゆい” だったんです。その場で携帯で調べたら、同い年っぽいし大阪に住んでる、ってなって。
 そのあと酔った勢いで「マジで曲聴いてクソほど感動したんで、僕とお酒飲んでください」ってイエナガにDMしたら、「ぜんぜんいいっすよ」って返ってきて。実際に会って話したら好きな音楽が共通していて、その日に「ベースいるんだったら誘ってください」って言いました。後に「初代サポート・ベースのうえまやさんが上京するのでお願いします」ってイエナガから連絡がきて、サポートに入りました。

──“まばゆい” 大人気ですね

イエナガ : 最初にネットで評判になったのが “まばゆい” が入ったEPで、インパクトはあったと思っていたんですが。それがメンバーが集まるきっかけでもあったんだなと、いま聞いてて再認識しました。

photo by tsuda honori

──colormalは2018年末からライヴ活動を開始し、2019年5月にマツヤマさんが入っていまのかたちになり、その後、東京でもライヴを行うなど順調に活動をしていました。2020年の秋になって、イエナガさんが「colormalの活動を終える」というツイートをするようになり、世間をざわつかせました。あのとき実際はなにを考えていたんですか?

イエナガ : あのときはもうバンドになることが決まってました。2020年の夏からまた少しずつライヴができるようになって、でもそれを僕がひとりでやるのがしんどくて、8月のライヴのときに「バンドになろう」ってメンバーに相談したんです。その話が固まったとき、一刻も早くソロをやめたいという勢いのままにツイートしました。当時はバンドになったら名前を変えようという案もあったので、「活動を終えよう」と。

──バンドになりたいより、ソロがしんどい、だったんですか?

イエナガ : きっかけはそうですね。

──制作云々ではなく、バンドやライヴの活動に付随するものの大変さですか?

イエナガ : どちらかというとそうです。サポートのときからメンバーがそういうことを手伝ってくれていたので、もうこれバンドやん、と思って。

──バンドにすることの制作面での展望や不安は?

イエナガ : そこまで1年ちょっといまのメンバーでやってくるなかで、ライヴ・アレンジをスタジオで練るときにメンバーがおもしろいフレーズもってきたりという瞬間も増えて。案外バンドできるかもね、みたいに僕個人の意識も変わりました。バンドにしたらおもしろいかもって。

──実際にバンドになってなにが変わりましたか?

イエナガ : 自分たちより、まわりの受け止めかたや見る目が変わったほうが大きいですね。僕ら自身の心持ちはそれほど変わらなかった。4人で曲を作れるね、くらいな。

──メンバーのみなさんは?

マツヤマ : メンバーとしてやっていくぜ! と気合いを入れ直すタイミングではあったけど、やってることは前と変わらないです。あとは、イエナガのしんどさを僕らも分かち合おう、そうして長く続けていきたいよね、という気持ちで。

──楽曲制作はどう変わりましたか?

イエナガ : 自分がアレンジを作り込んでいく量はめちゃくちゃ減りました。サポートのときは既にある曲を再現するとか、僕が全部の楽器を入れたデモを持っていくとかでしたが、前作の『losstime』というEPに入っている “延命” や “さまよう” のバンド・リアレンジ版は、コードや大まかな展開だけ決めてスタジオでメンバーにフレーズをつけてもらって作りました。僕がパートを全部埋めたデモを持っていくことは、もうしていないです。

colormal - 延命 (colormal - losstime)
colormal - 延命 (colormal - losstime)

マツヤマ : デモにベースが入っていたら、それを超えたものを出さないとメンバーになった意味がないので、越えようと努力するようになりましたね。

イエナガ : うちはドラムとベースが特殊で。田井中とマツヤマって、どういう世界線でも同じバンドでやることにならない組み合わせなんですよ。それまでやったきたジャンルが違いすぎて。

田井中 : それはそう思う(笑)

マツヤマ : たしかに(笑)

イエナガ : でもその「いびつさ」がバンドのカラーになってきたなと思ってます。

この記事の筆者
高田 敏弘 (takadat)

Director。東京都出身。技術担当。編集部では “音楽好き目線・ファン目線を忘れない” 担当。

OTOTOY各スタッフ+αがそれぞれ選ぶ、2024年の10作品

OTOTOY各スタッフ+αがそれぞれ選ぶ、2024年の10作品

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.307 ロックだとかポップだとか

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.307 ロックだとかポップだとか

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.306 2024年リリースもライヴも良かったアーティスト

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.306 2024年リリースもライヴも良かったアーティスト

Hammer Head Shark──音像と皮膚の境目がなくなるとき、そこは僕と君の居場所

Hammer Head Shark──音像と皮膚の境目がなくなるとき、そこは僕と君の居場所

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.290 Please, Please, Please

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.290 Please, Please, Please

常に4人で面白いと思えるところへ──ANORAK!、試行錯誤で挑んだ“ダンス・ミュージック”

常に4人で面白いと思えるところへ──ANORAK!、試行錯誤で挑んだ“ダンス・ミュージック”

疑いながら答えを積み重ねていくdownt──自身を貫いた先で待つ名盤に向かって

疑いながら答えを積み重ねていくdownt──自身を貫いた先で待つ名盤に向かって

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.266 ロスレスをdigる

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.266 ロスレスをdigる

「ついに日本でやるんだ」──アジアの観客とアーティストたちが〈BiKN Shibuya〉で灯した光

「ついに日本でやるんだ」──アジアの観客とアーティストたちが〈BiKN Shibuya〉で灯した光

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.231 夏です

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.231 夏です

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.219 アズテック・カメラから、ウェブ経由、The 1975まで

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.219 アズテック・カメラから、ウェブ経由、The 1975まで

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.201 2022年をふりかえる

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.201 2022年をふりかえる

やりたいことが増えて満足してないです──バンドになったcolormalが目指す色彩と普遍

やりたいことが増えて満足してないです──バンドになったcolormalが目指す色彩と普遍

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.161 私立恵比寿中学と時と私

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.161 私立恵比寿中学と時と私

名盤を50年かけてでも作りたい──NaNoMoRaLが放つ、渾身の自信作『ne temo same temo』

名盤を50年かけてでも作りたい──NaNoMoRaLが放つ、渾身の自信作『ne temo same temo』

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.149 今年刺さった楽曲・アーティスト

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.149 今年刺さった楽曲・アーティスト

三方幸せな必然的邂逅──バンドとして深化したSACOYANSの2年間

三方幸せな必然的邂逅──バンドとして深化したSACOYANSの2年間

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.126 優しく力強い、確信

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.126 優しく力強い、確信

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.97 making our future

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.97 making our future

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.74 延期(中止)になったもの

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.74 延期(中止)になったもの

長期戦になるけど、またみんなに会うために──いまこそ下北沢にエールを!

長期戦になるけど、またみんなに会うために──いまこそ下北沢にエールを!

宅録とバンド、両岸を軽やかに渡り歩く喜びを分かち合う、colormal

宅録とバンド、両岸を軽やかに渡り歩く喜びを分かち合う、colormal

小樽発、plums──せめぎ合う3つの凛とした“メロディ”

小樽発、plums──せめぎ合う3つの凛とした“メロディ”

熊本発。3人のソングライターが織りなす透明感と強さ──Shiki

熊本発。3人のソングライターが織りなす透明感と強さ──Shiki

絡み合うふたりのヴォーカル。発見と驚き──メレ

絡み合うふたりのヴォーカル。発見と驚き──メレ

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.45 20年代の希望、ここにあります

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.45 20年代の希望、ここにあります

パンキッシュなアティチュードと甘美なメロディ、そして貫かれる美学──Waater

パンキッシュなアティチュードと甘美なメロディ、そして貫かれる美学──Waater

【REVIEW】The 1975 「People」、世界を驚かせた激情と抵抗

【REVIEW】The 1975 「People」、世界を驚かせた激情と抵抗

その天性のヴォーカルはあなたの心に痕跡を残すだろう──afloat storage

その天性のヴォーカルはあなたの心に痕跡を残すだろう──afloat storage

この記事の編集者

[インタヴュー] colormal

TOP