一緒に歩いていける関係になれたら嬉しい

──先ほどもお話にでてきた“寄り添う”というワードは、野田さんを紐解くキーワードのひとつですよね。
野田:メジャーデビューするにあたり、チームで「野田愛実というアーティストをどう確立していくか」について話し合ったときに、しっくり来たのが“寄り添う”でした。私は自分のことをそんなに特別な人間だと思っていないんです。普通に学生生活を送っていたし、いまだってわりと普通の生活を送っているから。そんな私だからこそ「みんなこういう悩みがあって、こういうふうに生きてるよ」と、音楽を通して寄り添える関係になれたらいいなと思いました。自分と向き合うことや自分を愛すること、日々の暮らしについて、私と同じように考えてる人は多分、たくさんいるから。上から目線で「頑張れ」と応援するのではなく、「私も頑張っているから一緒に頑張ろう」のスタンスで、一緒に歩いていける関係になれたら嬉しいですね。
──その思考になったきっかけが、何かあったのですか。
野田:年齢なのかな(笑)。メジャーデビューしたのが30歳のときだったのですが、20代から30代に切り替わるタイミングで、気持ちにすこし余裕ができたというか。20代後半の頃は、得体の知れない焦りのようなものが強くて、けっこうモヤモヤしていたし、自分のことから目を背けたかったのですが、30歳を超えたときに急に心が軽くなって。きっといろいろな経験を重ねてきたことで、自分と向き合えるようになったのだと思います。いまでもいろんな悩みや辛さはあるけれど、そういったものから逃げだすことがなくなりました。自分が本当にやりたいことはなんだったのか、自分が届けたいものはなんなのか、すごく見つめられるようになった。初心に返れた感じがします。
──そうなると、作品にも変化がありそうですね。
野田:そうですね。等身大な想いを書けるようになりました。正直なところ、「こういう曲を書いたらウケるんじゃないか」とか「いまはこういう曲が流行ってるから、こうしてみよう」と考えながら、楽曲制作をしていたこともありました。でもいまは、すごくいい環境でやらせていただいているのもあり、本当に自分が作りたいもの、歌いたいものを書けています。あまり無理しないというか。自分が思わないことをしなくなりましたね。
──インディーズ時代は「少しの実体験と大きな妄想」をテーマに掲げていたかと思いますが、現在だと実体験と妄想の比率はどのような感じですか。
野田:逆になったかもしれないです。3割の実体験と7割の妄想だったのが、作品から感じたインスピレーション1割と自分の想い9割になりました。以前は実体験から妄想を膨らませていたけれど、誰かのお話や作品から自分が共感できることを抽出してくるようになったと思っています。自分が見たもの、感じたことから、リアルな気持ちを抜き取れるようになりました。これが等身大で楽曲を作っているということなのかもしれないですね。
──自身の想いを膨らませるためのインスピレーションは、どのようなところから見つけてくるのでしょうか。
野田:たとえば、昨年末に主題歌を歌わせていただいた『わたしの宝物』というドラマは、私が経験していないことしかない話でしたし、けっこう難しい題材でした。でも、自分にとって大切なものを守り抜くためなら悪にでもなるという主人公の気持ちには共感できて。「大切なものを守ろうとして、人を傷つけてしまうこともあるだろうし、自分が傷つくこともある。それでも本当に大切なもののために、覚悟を持って生きていく」というメッセージを作品から感じとり、そこに自分の想いを重ねました。