2024/08/29 18:00

“大丈夫”という言葉のリアリティって、僕らの世代にはかなりあると思う

下田:ハルヲフォンについていえば、あれはあのあとに『爆裂都市』(*)がでてくるから、あの映画の時代に合わせるならば、近田さんのなかでもヴィブラストーンじゃなくて、ハルヲフォンだろうと。

『爆裂都市』:石井聰亙が、近未来アクションとして25才で創りあげた作品。ザ・ロッカーズ、ルースターズ、スターリンのメンバーや町田町蔵らも出演している。

田嶋:映画『逆噴射家族』(*)の話は、二人でよくするよね。

『逆噴射家族』:石井岳龍監督作品。団地生活から抜け出して、新興住宅地へ越して来た一家が、舞い込んで来た祖父によって歯車が狂い出す様子を描く。脚本は小林よしのり、「海燕ジョーの奇跡」の神波史男、石井聡亙、撮影は「ションベン・ライダー」の田村正毅が手掛ける。

下田:今回のアルバムを作るうえで、テーマのひとつになっている映画だね。

田嶋:もっとも印象的だったのは、あの映画のラストで、家が、家族がめちゃくちゃになって物理的にも破壊されて、バラバラになってしまった個人がもう一回、荒野のようなところに集まっている場面です。そこから原始共同体みたいな暮らしを始めるんだけど、それがちょっと楽しそうなんだよなー。あのラストが僕たちの心象風景としてあって、アルバムのイメージ形成に役立っています。僕にとって、この社会はもはや寄る辺のない“荒野”のようなものに見えるわけです。そうしたなかでもなんとか、“大丈夫”になっていかないといけない。“大丈夫”という言葉のリアリティって、僕らの世代にはかなりあると思う。

下田:相当あると思うよ。

田嶋:やっぱカネコアヤノが好きなんですけど、人気がある理由は、ミクロな次元で自分や親しい人の心が“大丈夫”であることの大切さが歌われているからじゃないかと思います。荒野のような世界でなんとか生きていけるように。自分たちの世代にとって、“闘う”ことは例えば街頭に出て騒ぐという感じじゃない。

昔は、あるいはいまも、闘いといえば社会運動だったかもしれないし、街頭で行われていたかもしれない。でも、いま本当にリアルな闘いは、もっとミクロなところにある。少なくとも僕らの世代のリアリティはそんな感じじゃないかな? ひとりかもしれない。でも横をみてごらんよ、同じようなやつがいるかもよ、という感じ。退却戦の真っ最中ですよ。

──そういうコンセプトって、二人のあいだでいつも共有されている?

田嶋・下田:いつも話してます。

下田:で、『逆噴射家族』についていえば、小林ヨシノリが脚本を書いていて、監督が石井 聰亙で、音楽はルースターズ。思想の違いはあれど、いっしょにモノを作るというところで一致点を見いだしていたのかな、と想像します。喪失される共同体を描くという一点で、いろんな人が参加して、物凄く違う人たちなんだけれど、同じ問題意識を共有してるから作品化できている。

田嶋:僕は1998年生まれで、あの映画に描かれた日本の“荒地”そのままの、核家族以下の状態で東京で暮らしてきて。下田君は実家は山形だけれど、上京してきてる。そういう風に、都市のなかでバラバラな存在として生きていくことへの応答として、わかりやすい記号としての“日本”に飛びついてナショナリストになっていくとか、なにか強いものに自分を帰属させてくとかじゃなくて、もっと“大丈夫”って言えるように、別の道を模索したい。とはいえ僕も、現実離れしたナショナリズムについてはノーサンキューですけど、パトリオティズム(郷土愛)は少しわかるし憧れがありますよ。都市生活者であることが自分達のアイデンティティかもしれないですね。

──このアルバムには、たとえば八〇年代であれば「都市生活者の夜」で江戸アケミが歌った、途轍もない寂しさが、形を変えつつもずっと流れているように思う。それは、インタヴューする側が年を重ねている事実はあるけれど、そう感じる人はいっぱいいると思う。たとえば、「二人でしか行けないIKEA」というリリックがあるでしょ? あれは、昔だったら俵万智が「大きければいよいよ豊かなる気分東急ハンズの紙袋」と読んだ短歌の変奏だと感じた。それくらい、過去の表現が変奏されて流れているものがある。

──別の話だけれど、韻を踏むことにこだわりはありますか?

田嶋:僕はわりとどうでもいいんですけれど。でも韻を踏むと楽しいです笑。

下田:韻については踏んでるようがいいよね、という感じですかね。ラップを聴く快楽が、ヒップホップだけを聴く人には存在しているような気がしていて、そこはこれまでPICNIC YOUではあまり意識してこなかったことですが、今回のアルバムでは所々そのようなエッセンスを入れてみました。例えば小節を跨ぐような作りかたをしてみたり、パンチインで録って重ねることや、発声など現行のラップを意識しながら実験してみた部分が結構あります。

──アルバムのクレジットに亡きECDへの献辞もある。ECDをどんなふうに聴いてきました?

田嶋:僕はECDの〈さんぴんCAMP〉に集約されるようなメジャー向きの時期とか、後期の社会や政治に向かっていった部分も好きなんですが、アルコール依存症になっていちばん沈んでいた頃のアルバムが作品としては好きなんです。フリーキーな魅力があって。社会性から逸脱して生きている姿に惹かれたし、それがそのまま音と言葉になってる凄みを感じる。『MELTING POT』というアルバムのなかで、HOWLING UDONという人がポエトリーリーディングでフィーチャーされていて。路上詩人だった人なんですが、「詩的言語ってこういうのを言うんだ」と初めて分かった気がした。そういう人を呼んでることもそうだけど、ECDは「ストリート」とか「路上」じゃなくて、「地べた」の人だなという気がする。そういう目線の低さみたいなものに、いちばんシンパシーを感じるし憧れます。

下田:今回のアルバムのなかの「革命」って曲のなかに、Rude boy Stellaという箇所があるんですが、それは、いま言ったECDとHOWLING UDONのところからサンプリングしています。でも単純にECDさん、大好きなんですよ。かつては「ラップごっこはこれでおしまい」を流してからライヴを始めたりしていました。

──『MELTING POT』については1曲目の「気持ちいいクソ出す/EXODUS」しか覚えてない…。ひとまず、ECD『MELTING POT』とPICNIC YOUの「革命」を聴き比べてみるところから、再スタートします。 そして、そんなふうにして二人の繰り広げる「友愛の空間」が少しでも広がっていくことを祈ります。

あとがき by田嶋

インタビュアーを引き受けてくださった陣野さん、こんなどこぞの馬の骨のインタヴューを掲載してくださったOTOTOYさん、ありがとうございます! また、インタヴュー記事を提案してくれ、編集してくれた津田さん、渋谷の街中でこんなアン・フォトグラファブルな僕たちを必死に撮影してくれたyaciのジュリアン君もありがとう! この日めっちゃ楽しかったです!
陣野さん、インタヴュー終盤でお互い口篭って、「あとなにか話しておきたいことありますか…」となったとき、僕がしたかったのは「このアルバムを敢えて批判するならどういったことになりますか?」という質問です。大変なシンパシーを持ってこのアルバムを聴いて下さり、インタヴューして下さったことを感じております。しかし、世代の違いとそこからくる経験の違い…というか世界に対する構えかたの違い、みたいなものは必ずあるわけで、「そうじゃねんだよなー」「コイツらわかってねえなー」という点もあるんじゃないかな?とインタヴュー前から思っておりました。同じようなものが好きなだけ余計に…。というのも、例えばこのインタヴューで話してたような、人の孤独であるとか、昔ふうの言葉で言えば「人間疎外」の問題(笑)というのは、古くて新しいテーマで、個人的かつ社会的なテーマで、音楽の中で世代をまたいで絶えず扱われ更新されてきた主題ですから、上の世代の人たちと僕らで共有出来る気持ちと食い違う気持ちをどちらも話せたら面白いかなーと思っていたのです。だって、新世代も旧世代も互いをバケモノみたいに思ってたりする、というのが世の常じゃないですか笑。なんというか、もっと正しく貶し合いたいな、みたいな気持ちがあります笑。ただ、安易に世代間闘争みたいな構図に持ち込もうとする自分のプロレス的心性に若干嫌気がさしてやめてしまいました。まあ、もっとコミュニケートしたい、という一語に尽きるかもしれません(僕らの世代はコミュニケーション欠乏症ですから笑)。いつかそういった話ができたら嬉しいです。あと、僕らの歌詞を評して言って下さった「強さになびかない言葉」という言葉に感動しました。
そして、最後まで読んで下さった親愛なるあなた、ありがとうございます!アルバムを繰り返し聴いてくれたら嬉しいです。いつか会えたらいいですね!

編集 : TUDA

『友愛』


ライヴ情報

〈PICNIC YOU 1st full album 『友愛』 release party"TWIN PEAKS"〉

2024年9月23日(月・祝) 下北沢SPREAD
open/start 17:30
adv/door ¥3000/¥3500
ticket: https://t.livepocket.jp/e/ic197

live:
PICNIC YOU
Q/N/K
rowbai & Kuroyagi
botsu vs nul
DJ:
sakataritsuko
kaolinite
lostbaggage

PROFILE:PICNIC YOU


■X : @YouPicnic
■Instagram : @picnicyou

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TUDA

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[インタヴュー] PICNIC YOU

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