コロナ禍の孤独へと接続した、2007年のサウンド

当時、このアルバムはCDのみでリリースされ、ジャッキー・ミットゥーのカヴァー「OBOE」が7インチでシングルカットされた(カップリングはダブ・ヴァージョン)。だが、その後、ほどなくCDは廃盤となり、音源的には長く聴取困難な状態が続いた。とりわけ、サード・アルバム『VOLCANO』でYLNWがリズム隊を加えてバンド化し、ライブのレパートリーとして「SWEET NIGHT DEW」(オリジナルはDeterminations)がよく演奏されるようになってからはさらに需要が増し、中古価格も上昇していった。
このアルバムで「SWEET NIGHT DEW」をセルフカヴァーしたことについては、「自分が作ったし、自分がやるのは誰も文句いわへんやろうなって。あの曲は気に入ってたし、デタミがなくなってあの曲をやらないのはもったいないと思って」(YOSSY)とのこと。2人の記憶によれば、Determination時代にライブで演奏したのは1度きりだったそうだ。今ではこうして配信でもカセットでも7インチでも(こちらはすでにソールドアウト!)でも聴くことができるようになった。ありがたい。
『WOVEN』の配信が突然始まったのは、コロナ禍の最中だった2020年7月だった。この年の4月に発令された最初の緊急事態宣言は明けていたが、日常生活にマスクは欠かせなかったし、夜の街はとてもとても静かだった。もちろん、音楽の世界でもライブハウスの営業制限など厳しい状況が続いていた。
そんな静かな夏の夜、このアルバムを聴きながら毎日、夜の散歩をした。街灯もあまりない暗がりを通るとき、何もいじっていないのに不思議と聴いていたボリュームが上がるような気がしたのは、自然と耳をそばだてて、この音を常夜灯のように頼りにしていたのだろう。
「当時、すごい宵っ張りで夜中に録ってたよな。家は調布の川沿いで、外は真っ暗。スタジオの中も防音材で真っ黒」(icchie)
「自分たちで防音したんで窓もなかった。当時よく“夜っぽい”って言われて、たしかにそうやなと思ってました」(YOSSY)
「孤独感もあるよな」(icchie)
「ふたりでやりきった感じ。東京に出てきたばかりで、まだあんまり友だちもおらへんし。だから自分らだけを信じて黙々と作ってた感じかな。誰に向けているわけではなくて、外に向かってない音。内面に向かっていた。孤独な人にいっぱい聴いてもらいましょう(笑)。孤独な夜にフィットする作品みたいなんで」(YOSSY)
ふたりには、このアルバムは当時受け入れられなかったという思いがある。そして、密室でのふたりきりの作業でのストレスが、次作でのバンド編成に向かったという脈絡もある。だが、「その時代っぽいのものにならなくて、いつでも聴けるものになったのかもしれない」(YOSSY)という、自分たちでも解読しきれていない不思議な魅力をこのアルバムに感じているのは確かだと思う。
そして、このアルバムを聴いてほしい理由はそれだけじゃない。今ではシンガーとしての魅力を自由に発揮しているYOSSYが初めてヴォーカルを取った2曲「PARTICLE OF ME」「ROOM」も収録されている。
もうひとつ。アルバムのイメージを決定づけているアートワークも特筆しておきたい。手探りしても何も感じないほどの暗闇の奥にうっすらと光るような繊細なガラス細工を製作したのは、(YOSSYが街で偶然に展示を見つけて打診した)美術作家の青木美歌(2022年に逝去)。生成と変化を繰り返しながらどこまでも伸びてゆくようなその姿は、そのままこのアルバムでYLNWが作り出していた音楽にも当てはまる。
人が生きている場所から何万光年も離れた場所で咲く花とはこういうものだろう。ひとりの人生のスパンでそこにたどりつくことは不可能だと分かっていても手を伸ばしたくなるようなせつなさ、はるか遠くにあるのにすぐそばにいるようで何かを伝えたくて胸をかきむしられるような儚さ。そういう感覚への入り口がここには永遠にある。


YOSSY LITTLE NOISE WEAVERの配信中の作品
目下のアルバムとしては最新作となる2018年、8年ぶり4作目
今回とりあげた『WOVEN』から一転、バンド体制となった2010年リリースの3作目
2005年のファースト・アルバム
YOSSY LITTLE NOISE WEAVER『WOVEN』、そして『PRECIOUS FEEL』がカセット・リイシュー
今回とりあげた『WOVEN』とともに、前作にあたる本ユニットのファースト・アルバム、中納良恵(エゴ-ラッピン)もゲスト・ヴォーカルで参加の、2005年のアルバム『PRECIOUS FEEL』がカセットにてリイシュー。下記、購入はオフィシャル・ウェブ・ショップから。
YOSSY LITTLE NOISE WEAVER OFFICIAL ONLINE SHOP
https://www.yossylnw.com/online-shop


PROFILE : YOSSY LITTLE NOISE WEAVER
DETERMINATIONS、BUSH OF GHOSTSでの活動を経て、YOSSY(キーボード・ヴォーカル)とicchie(トランペット・トロンボーン)が2005年に始動したユニット。
2005年 EGO-WRAPPIN’の中納良恵をヴォーカルに迎え1st.album『PRECIOUS FEEL』を発表。2007年2nd.album『WOVEN』、 2010年3rd.album『VOLCANO』をリリース。
それぞれにハナレグミ、Caravan、Mr.Children、Ego-Wrappin'をはじめ様々なアーティストのサポートなどでも活動している。
ライブではYOSSYの個性的でドリーミーな歌声とカラフルなアレンジのピアノにicchie のハスキーなトランペットをフィーチャーしたオリジナルPOPサウンドを展開。
自然豊かな山深くに自宅兼プライベートスタジオを構え、親交の深いミュージシャンを招きアルバムを制作。2018年7/4に4th.album『Sun and Rain』リリースする。
参加アーティストはハナレグミ、伊賀航、栗原務(Little Creatures)、波多野敦子 、椎野恭一、石井マサユキ、小池龍平。
小西康陽氏がアルバムと同時リリースした7インチシングル「GHOST」を2018年の「ダントツ1位」とコメントするなど好評を博す。
2020年に7インチシングル『WANDERING』、2021年にはYOSSYソロ名義でミニアルバム『HONEY』、2021年に7インチシングル『PEACE/WALK ON THE WILD SIDE』をリリース。
■OFFICIAL SITE : https://www.yossylnw.com/
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