ザ・なつやすみバンド『TNB!』
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(16bit/44.1kHz) / AAC
【配信価格】
単曲 250円(税込) / アルバム 1,648円(税込)
子供の頃に逃避行
「毎日が夏休みであれ」という信念をバンド名とした、ザ・なつやすみバンドの1stアルバム。本作を聴くと、過去の記憶にすっと戻ってしまう。
少なくとも私にとっては最初の2曲だ。1曲目の過ぎ去る夏を歌う「なつやすみ(終)」では、中川理沙の無垢な声が、子供の頃の思い出に引き戻してくれる。長かった夏休みが終わってしまう憂鬱。時間を持て余し、寝過ぎた昼寝や、扇風機に顔を近づけ声を出していたこと。私にも子供の頃があったのだ。
この曲の作り手同様に、地方から上京した自分自身の体験も思い出される2曲目の「世界の車窓から」。もう会えない君を置いてふるさとを離れる旅立ちを歌う。君への未練を包んでいるのは、慎ましいファンファーレとしてのMC.sirafuのトランペット。次の町への期待が伺える。ceroのサポートをつとめたり、片想いのメンバーでもあるMC.sirafuの奏でるスティールパンは、このアルバム全体において、ちょっとしたブルーな気分を快活なポップな色彩へと転じさせている。
私だけでなく、きっと誰の心にもある思い出をザ・なつやすみバンドが忘れないでいてくれるから、今を過ごしながらも、過去に思いを馳せることができる。楽しさで埋める逃避ではなく、過去を回想することで、地続きである今に向き合える逃避。それがザ・なつやすみバンドの信念なのかもしれない。(和田晴子)