ふてくされた瞬間に、ニヒリズムってやつに飲まれちゃう
── “やくたたず” とか、“ヴィシャス” の「だれもぼくをすくえない」とか、自己嫌悪っぽい歌も多いですよね。たぶん志磨さんの自己評価でもあるのかなと思うんですが、そういう自分と、ステージでパフォーマンスして注目を浴びる自分の間にあるものって何だと思われますか? どちらも本当の姿なんだとは思うんですが。
志磨:うーん……ぼくには、生まれ持ってのものなのか、育んだものなのかはわかんないんですけど、本にも書いたように、昔からどうしてもうまくできない部分があるんですよ。それはまさしく、ぼく個人が抱えてる問題なんですけど。で、ぼくが人前でやってることっていうのは、あれ、ぼくが発明したわけじゃないんで(笑)。ぼくが好きなもの、かっこいいと思ってることをやってるだけなんで、かっこよくて当たり前なんです。あれはぼくのかっこよさではないんです。ロックンロールっていうもののかっこよさ。カルチャーも含め。
──志磨さんは美しさ、かっこよさ、面白さみたいなものをひたすら追求してこられたのではないかと思っていますが、それはご自分ではないということなんですね。
志磨:そう。それをぼくはカルチャーと呼ぶと思っていまして。何世代にもわたって伝えられてきたもの、ずっと受け継がれてきたもの。それってぼくのものではないじゃないですか。例えば、古典落語をやってお客さんが大笑いする。でもそれはぼくが作った噺じゃないんですよ。古くから伝わる噺がまず面白い。で、もちろん伝えるためのテクニックは磨くし、だから現代にも名人がいると。ぼくはその名人になりたいんです。ロックンロールをやって、「ロックンロールかっこいい」と思わせる名人芸を目指している途中でして。
──ロックンロール師匠を目指しておられると(笑)。
志磨:そうそう、ロックンロール一門の。だからステージのぼくはかっこよくて当たり前なんです。普段のぼくとはまったく違う。
──毛皮のマリーズからドレスコーズまで、僕が志磨さんの音楽の好きだな、いいなって思うところのひとつが、ロマンチックなところなんですよ。
志磨:ぼくはね、うお座なんで、ロマンチストらしいですよ。
──あ、そうなんだ。そのロマンチックな感じは何なのかというのが、今のお話で少しわかった気がしました。自分じゃないものになろうとしているというか。
志磨:そうですね(即答)。
──ミック・ジャガーもジョン・レノンもデヴィッド・ボウイも、志磨さんのお言葉に乗っかって言うなら、彼らですら、彼ら自身のかっこよさではないという。
志磨:そう。彼らもまた、先人が編み出した文化の一端です。で、ぼくもまたそうであるという。
──とはいえ、やっぱりその人のフィジカルとか技術も関係しますよね。
志磨:そうそう。それは磨けますから、そこは頑張ります。
──それで言うと、実は今回のアルバム、志磨さんの歌が今まででいちばん色っぽく響いている気がします。
志磨:お! 芸がちょっと磨かれてきましたかね(笑)。実はこのアルバムは、最近のなかではわりとキーが高めに設定されているんです。それものっぴきならなさの必然の帰結で、ただキーを上げたわけではなく。ひらめいたメロディを歌ってみるときに「これぐらいが適正だな」と思うキーが、たぶん半音から一音高いですね、ここ最近のアルバムより。前のアルバムだったらFとかで歌ってたのが、今回はGくらい。
──あぁ、それは印象変わりますね。
志磨:なんかそういうふうに歌いたいなと思ったんです、今回は。のっぴきならなさ、切実さの表れなんじゃないかと思います。
── “うつくしさ” に「きっとぼくら もうだめだろう だめだろうけど」「でも ぼくはあきらめてないのさ」というくだりがありますね。この歌詞はすばらしくて、「あたりまえな あまりにあたりまえな うつくしさ」を志磨さんは知っていて、そこを目指しているのかな、と。
志磨:いやいや、それはおこがましいです。それがぼくに備わってるわけではないが、それについてあらためて今、歌うべきだなというふうに思いまして。あまりにも今の世界は優しくないし、あまりに愛ってものがないがしろにされている、バカにされていると思うので。
──うんうん。だから(だいじなのは ふてくされないことさ)がガツンとくるんですよ。
志磨:とにかくこのアルバムはポジティヴなんです。すごく楽観的なんです。うん。そうしないと、本当に頑張って正気を保たないといけないくらいに、今の世界はおかしくなっているから。こんなこと、本当はべつに歌わなくたっていいんです。でも今それを歌わずしてなんのためのロックンロールかという。「大丈夫、まだいけるよ」って自分たちに言い聞かせないと。「もうなにをやってもダメでしょ……」ってふてくされた瞬間に、ニヒリズムってやつに飲まれちゃうから。
──まったく同感です。やっぱりこのタイミングで自伝を出されて、こういう内容のアルバムを出されたことには、後づけですが、何か必然的なものがあったのかもしれないですね。
志磨:この本を書いてなかったら、またちがったアルバムができていたかもしれないですしね。自分の作品の必然性にあとから気づくってのはよくあることですけど……本はね、「よし、そろそろ自叙伝でも出すか」って言って出したわけじゃないので(笑)。
──最初は断ったそうですね。
志磨:「恥ずかしい」って断って、でも「書きな、書きな」って担当さんが言ってくれて、まあそれこそキース・リチャーズでもマイルス・デイヴィスでもエディット・ピアフでも、ミュージシャンの自伝を読むのは好きなんで、まあそういうかんじのものなら出してもいいのかな、って思っただけなんです。もちろん音楽は自発的に作ってるから、「なんで作ったのかわからんな」っていうものはひとつもなくて、すべて必然的だと毎回思いますけども。
──偶然作った本が、必然にフィードバックしてきたような感覚ですか。
志磨:うーん、まあ、そうですね。これもまたひとつの必然かもしれない。「昔、こういうことがあったんだよ」ってひとつひとつ書き起こして、それを並べて……そうすることで、ぼくのなかで曖昧だったものがはっきりしてしまったっていう。すごく平たく言えば、ぼくは歳をとったっていうことがはっきりしてしまった。二十歳のときに書いたって、うっす~い、ペラペラの本しかできないじゃないですか。でも、こんな立派な本になるぐらい、ぼくは歳をとったっていう。そのことをはっきり自覚したので、やべえやべえと思いました。
──創作の泉が涸れてしまう、という危機感はあんまりなさそうにお見受けしますが。
志磨:湯水のように、とまではいかずとも、まあ……〆切が来ると(笑)、いつのまにかできてますね。「わ~、何もできない!」ってことはないんで。
──〆切、大事です(笑)。それでもご自分のなかでは好不調もきっとあるんでしょうけれど。
志磨:それもまた、さっきの技術論じゃないですけど、だいたい1日、2日あれば脳みそのチューニングを合わせられますね。ずっと継続的に作ってりゃチューニングも狂わないんでしょうけど、それはいやなんで(笑)。アルバムが出たら一回電源をオフにして、1年ぐらい別のことして暮らして、「さ、またアルバム作るか」って久しぶりに電源を入れると、やっぱり1日めは何も出てこないんですよ。「あれ、こんなにぼく才能なかったか」って思うんですけど(笑)、2日めぐらいからチューニングが合ってくると、ポンポンポンポンできます。
──デビュー以来、すごく順調にリリースしてこられたから、あんまり産みの苦しみを味わうタイプではないのかなと勝手に思っていたんですが、やっぱり波はあるんですね。
志磨:まあチューニングの合わせ方がうまくなったというか、1日目に曲ができなくても焦らなくなった、って感じです(笑)。
志磨遼平の十字架のような一枚
編集 : 菅家拓真
EVENT INFORMATION
the dresscodes TOUR 2025
6/12(木) 神奈川・CLUB CITTA'
6/14(土) 宮城・仙台Rensa
6/15(日) 北海道・札幌PENNY LANE24
6/21(土) 岡山・YEBISU YA PRO
6/22(日) 福岡・BEAT STATION
6/28(土) 愛知・名古屋THE BOTTOM LINE
6/29(日) 大阪・なんばHatch
7/6(日) 東京・Zepp Shinjuku(SOLD OUT!!)
チケット一般発売:3/22(土) 10:00~
詳細はこちら https://evilamag.com/live-event/
GEZAN 47+ TOUR「集炎」
開催日:2025年7月31日(木)
会場:F.A.D YOKOHAMA
共演:GEZAN
開場/開演:18:00/19:00
●チケット料金
前売り¥5,000 当日¥5,500(共にドリンク代別)
●チケット
抽選先行:4月26日(土)18:00 〜5月6日(火祝)23:59
一般発売:5月16日(金)21:00〜
●お問い合わせ
シブヤテレビジョン : 03-6300-5238 〈平日12:00〜18:00〉
これまでにリリースされた音源もチェック!
ドレスコーズの過去記事はこちら
INFORMATION
【公式HP】
https://dresscodes.jp
【公式X】
https://x.com/thedressSTAFF
【志磨遼平公式X】
https://x.com/thedresscodes