2025/05/14 18:00

INTERVIEW : ドレスコーズ(志磨遼平)

ドレスコーズ(志磨遼平)

志磨遼平に会うのは2023年8月、松田龍平と対談してもらって以来1年8か月ぶりだった。アルバムも1年8か月ぶり。リリースがなかった2024年、志磨は自叙伝『ぼくだけはブルー』(シンコーミュージック)を上梓し、ツアー “Honeymoon” でその内容に合わせたレトロスペクティヴなセットリストを披露していた。

その経験を通して彼が感じたことが、アルバム『†』(10thなので『テン』と志磨は読んでいる)にはこの上なく率直に反映されている。ここ数作とはかなり手触りが異なる一方で、やっぱり、さすがドレスコーズと納得のいく内容でもある。予断を排して志磨の言葉に耳を傾けていただきたい。

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インタヴュー・文:高岡洋詞
写真:西村満

まさにアルバムタイトルのような、ぼくの十字架ですね

──ドレスコーズのアルバムには毎回、明快なテーマやコンセプトがありますよね。今回はタイトルが記号なので、やや抽象的な印象を受けていたのですが、去年上梓された自伝『ぼくだけはブルー』を拝読してわかりました。いつも以上に志磨さんの考え方や音楽観をまっすぐに歌った曲が揃っているのは、本を書いたことによって立ち返るものがあったからなんですね。

志磨:立ち返るものがあったかどうかはさておき、本を書くにあたって初めて自分の来し方というか、今までの歩みというか、いわゆる過去を振り返ったんですよ。ぼくはとにかく過去に無頓着で、なんでもすぐに忘れてしまうんですが、こうしてひとつひとつ思い出して一冊にまとめたことで、こう、なんでしょうか。なんて言えばいいのかな……これは言葉にするのがすごい難しいんですけど……う~ん……(長い沈黙)……のっぴきならなくなった。

──のっぴきならなくなった?

志磨:はい。ぼくにはこうして語るだけの歴史があるし、作品もずいぶん出してきたし、もういつでも歳をとれるんですよ。つまり、昔の思い出を語っていれば余生なんて勝手に過ぎていくんだろうし、曲も新たに作らなくたって十分に事足りる。本を出した後にツアーがあったので、本の内容(生い立ちからソロプロジェクトとしてのドレスコーズに至るまで)にかこつけて、2014年までのレパートリーからいわゆる代表曲を時系列で披露するセットリストを組んだんですね。そうすることでお客さんに喜んでもらうことも、もはやできてしまう。老いる準備はできてしまったんだ、と考えたら、ものすごく恐ろしくなってしまって。

──それでのっぴきならないんですね。

志磨:で、ぼくは生まれ変わりたくなった。今までの人生を帳消しにしたくなりました。新しい作品を作って、新しい曲を演奏する。もちろんいつもやってることですけど、それをいつも以上に切実に求めました。好奇心とか知的探究心とかではなく、何がなんでも必要だったんです、新曲が。そうしないと、本当にぼくはこういうこと(本を指さす)だけで後の人生を終えてしまうだろうと。

──ここからもう一回スタートするぐらいの気持ちですね。過去のレパートリーももうやらない、とか。

志磨:いや、それはやります(笑)。いい曲しかないのでやりますけど、それだけじゃ足りなくなったということです。

──じゃあ、メロディも演奏も歌詞も、プリミティヴなほどにシンプルかつストレートな感触があるのは……。

志磨:そういうものを目指しました。いや、目指しましたじゃないか。求めました。そういうものがどうしても必要だったんですね。

──過去には無頓着だとさっきおっしゃいましたが、本を読むと記憶がすごく鮮明ですよね。

志磨:頑張りました。半年ぐらいかけて、必死に思い出しながら。記憶って面白くて、何かひとつきっかけがあると、ツルツルと「そういえばこんなこともあったぞ」って芋蔓式に思い出すんですね。そうやって半年ぐらいずっと回想していたんです。そんなことしてたら、本当におじいちゃんになってしまうと(笑)。

──半年間、集中的にその作業をしていたら危ういですね。楽しくもしんどくもある作業だったと思いますが、労力に見合うとても面白い本でした。

志磨:ありがとうございます。それはもう素直にうれしいです。

──面白い人生を送ってこられたんだなというのと、もうひとつ言うと、たぶん面白いことだけ書いてあるんじゃないかなと。

志磨:ぼくの人生が波瀾万丈かというと、たぶんそうでもなくて、人並みだと思うんですよ。そのなかから極端なエピソードだけを抜き取って並べてるんです。本当はもっと穏やかな普通の思い出も山ほどあるんですよ。ツアー先でメンバーとおいしいものを食べた、とか。でもそんなことを書いたって面白くもなんともないんで、自分に起こった最高の出来事と、最低の出来事だけを羅列、いや陳列するという。

──その結果、のっぴきならない気持ち、原点回帰の必要性が生じたと。

志磨:そうです。例えば火事が起きて何かひとつ持って逃げろと言われたら、ぼくはこれを持って逃げる。のっぴきならないときはロックンロールを選ぶ。逆にいらないものを手放すとしたら、これ以外のものを手放す。という、すごくシンプルな理由で曲ができていますね。

──例えば “ミスフィッツ” “ヴィシャス” のギター・ソロは、そののっぴきならなさを体現している気がします。

志磨:おおー。それはギタリストの田代(祐也)くんのお手柄です。彼は天才なので。『バイエル』っていうアルバムをリリースした後、ツアーメンバーを一般公募したんです。そのときに応募してくれた人で、もう3、4年ぐらいドレスコーズに参加してくれてます。今は28歳かな。ぼくの曲のギターはすべて彼に委ねています。

──焦燥感と情熱の表現に感服しました。ギターに限らず、サウンド全体に性急な、切迫した感じがみなぎっていますね。

志磨:レコーディングにあたって、メンバーに「これからデビューするバンドのデビュー・アルバムというつもりで演奏してください」と伝えました。

──なるほど。こうして志磨さんのお話を聞くといろいろ腑に落ちるのは、いつものドレスコーズという感じです(笑)。これも「いつもの」に近いかもしれませんが、 “リンチ” “ヴィシャス” “ミスフィッツ” といった曲名をはじめ、随所にロックや映画へのリスペクトを感じます。エルヴィス(・プレスリー)からモーリン(・タッカー)まで志磨さんが敬愛するロックンローラーの名前が登場する「ロックンロール・ベイビーナウ」には感動しました。

志磨:うれしい。ぼくもレコーディングで歌いながら泣いちゃいました。

──「年齢不問」「性別不問」「国籍不問」で、「お金もない つよくもない ぼくの味方」。志磨さんにとってロックンロールとは何なのか、ということが余すところなく表現された、とびきり素敵なラヴ・ソングと思いました。ここまで立ち返ってロックンロールについて歌った曲って意外とないですよね。

志磨:ぼくのレパートリーにはないですね。 “うつくしさ” もそうなんですけど、本当に自分がもっとも……大切にしているもの、かけがえのないもの……心の中でじっと握りしめているもの。まさにアルバムタイトルのような、ぼくの十字架ですね。うん、そういうことを、これがもしデビュー・アルバムであるなら、あらためて歌う必要がある。今まで何度も歌ってきたことでも、過去を捨てた男なので(笑)、もう一度あらためて歌おうという。歌詞にあるとおり、あたりまえなうつくしさをふいに歌いたくなったんですね。

この記事の筆者

[インタヴュー] ドレスコーズ

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