好きなものを好きにやった結果、僕らの音楽をいい感じに捉えてもらえることが増えた
──サウンド面の話になりますけど、前作は各パートそれぞれが活き活きしている印象があったんですけど、今作は音の層が分厚くて、すごく綺麗で。イントロからも、その良さをすごく感じました。
半田 : 単純に自分たちのスキルが若干上がっていて、やれることが増えたんです。好きなことがいっぱいできました。
深谷 : 今回は結構どの曲もイントロが長めですよね。もともとイントロが長い曲とか、サビがなかなか来ない曲とか好きなんです。でも「これをいまやるのってどうなんだろう?」って思うところもあって。
──「どうなんだろう?」というのは、流行とか時代を考えての迷いですか?
深谷 : 自分はあまり気にしていない方だと思うんですけど、ちょっと流行りを気にするところもやっぱり多少はあって。でも「そういうのいいや」って思って、好きにやった結果、今回の音の厚みへ自然に繋がったんですよね。好きなものを好きにやった結果、僕らの音楽をいい感じに捉えてもらえることが増えた気がします。
半田 : たとえば“see the sea”ってイントロがめっちゃ長いじゃないですか。セールスになる曲って、イントロも短めだし、色々としっかり組み込まれていると思うんです。そうやって時代に沿って曲を作れる方が器用だと思うんですけど、僕らはやっぱりどうしても不器用なところがあるんだと思います。
深谷 : やっぱり自分たちがいま、こういう音楽をやりたいと思ったってところが最優先になるよね。
──制作は打ち込みですか?
半田 : 今回は作り方が変わってきていて、僕が若干DTMをしているんです。そのデモをみんなに聴かせて、そこから練っていくみたいなスタイルが多かったですね。
深谷 : それもサウンドの変化に繋がっていると思います。
半田 : 自然とね。だからレコーディング中も、僕がギターを色々やりた過ぎてエンジニアさんから「ちゃんと考えて」って怒られたりしたんですけど(笑)。自分のわがままを聞いてもらいながら、やりたいことをちゃんとやらせてもらいました。僕は普段VOX / AC30っていうアンプを使っているんですけど、レコーディングスタジオに同じものがあって。そこのAC30は、僕のAC30より良くて「これ使おうよ!」って話になって、アンプから出る音をエンジニアさんと楽しみながらやっていました。
──制作方法だけでなく、「歌」に対する意識にも変化がありましたか? 今作はボーカルが以前よりも前に出ていて、楽器隊との間に奥行きを感じました。
半田 : それもエンジニアさんとやり取りをしていくうちに、もっと自分が歌を主張しなきゃいけないし、もっと人の耳に残るように頑張らなきゃいけないって思ったんです。自分ひとりじゃそういう表現できなかったと思いますね。はじめて組んだエンジニアさんだったので、最初は探り探りだったんですけど、お互い最後はズバッと言えるような関係性になれました。レコーディング中は自分の歌が思い通りに行かなかったり、辛いこともあったんですけど、終わってから「一生懸命だったんだ」って変化に気づいたかもしれないです。あとは今回、コーラスも一緒に考えてくれる人がいて、それもすごく大きな要因のひとつだと思います。
──そういった変化がいちばん反映されている曲を教えてください。
半田 : “eve”ですかね。“eve”のギターソロ明けのCメロ「できれば できれば 世界が 変われば」の部分のコーラスは僕ひとりでは考えられなかったと思います。
──“eve”はドラムがシンプルだと思うんですけど、それはボーカルやコーラスを活かしたいという想いからですか?
深谷 : そういうのもありますね。シンプルな感じがかっこいいなと思って、シガー・ロスを参考にしたりしています。
半田 : もともと、“eve”のドラムで僕が伝えていたイメージが「打ち込みみたいなドラムでどう?」みたいな感じで、それに近づけてくれたのもありますね。
──では他にアルバム全体を通して、参考にしたアーティストは?
半田 : くるりですね。
深谷 : あとは曲ごとに、サニーデイ・サービスっぽくしたいねっていう話もあったよね。
半田 : スノウ・パトロールもそうですね。音像で言ったら全然違うかもしれないんですけど、根柢にあるというか。
──半田さんはくるり、深谷さんはサニーデイ・サービスが以前からルーツと明言されていると思うんですけど、どのあたりに魅力を感じますか?
半田 : くるりって音楽シーンのなかでも、たぶん尖った存在だと思うんですよね。でもやっていることはすごくど真ん中だし、変に奇をてらうつもりもないんだなと聴いていて思うんです。そうやってど真ん中にいるけど、自分たちの味をしっかり出しているところにすごく憧れますね。目立たないことがすごく目立つんだなっていう。
深谷 : サニーデイ・サービスは、美しさと日常間のマッチ具合がすごくきれいで。いなたさもありつつ、すごくきれいな部分もあるところにすごい惹かれます。程度は違うかもしれないけど、自分たちもそれに近いものをもしかしたら持っているんじゃないのかな。バンドとしても常に新しいことをっていう、そのチャレンジし続ける姿勢がすごいって思います。
──その王道なサウンドではあるけど、自分たちなりの色があるというのは、灰色ロジックにも通じているところがあると思うんです。やっぱりそういったところを目指していこうという理想像はあるのでしょうか。
半田 : ずっとそうですね。それでしかないです。選択をするなかで、王道じゃないものを掴むかもしれないけど、結果的にダサくなければいいんだよなみたいな。
深谷 : 「分かりやすい曲をやりたくない」というわけじゃなくて、それをやる上で自分たちのなかで「これいいじゃん!」ができたら、分かりやすい曲もどんどんやりたいです。自分たちの肌に合う幅はどんどん自然と広がっていったらいいと思うし。
──有名になりたいという意思より、自分たちのモットーに沿ったバンドでありたい?
半田 : いや、最近はそこも変わってきていて。確かに前は有名になる、ならないではなく、「ちゃんと自分が好きな曲をやっていこうぜ」という方が強かったんですよ。でも最近は、俺らはちょっといいの作っているし、だからこそたくさんの人に聴いてもらいたい。それであわよくば、もっと売れたいと思ってます。
──そういった心境の変化ってなぜなんでしょう。
半田 : これだけ自分たちに手を差し伸べてくれる人がいるんだとしたら、もう自分たちだけじゃないなって思ったんです。ずっと音楽をするためには、日の目を浴びたいなと思ったりはします。
深谷 : 今作のレコーディングが全部終わって通しで聴いたときに、「すげえアルバムできたな」と思ったんですよね。それはもちろん聴いてほしいし、聴いて響く人がたくさんいるんじゃないかなと思った時に、そういう気持ちに変わりました。