cero『Obscure Ride』
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(16bit/44.1kHz) / AAC
【配信価格】
単曲 257円(税込) / アルバム 2,569円(税込)
Obscure Soul from Tokyo
3rd アルバムにしてceroが拓いた新たな音楽の地平を“オブスキュア・ソウル”と命名したい。本作への評価は、ネオ・ソウル以降のグルーヴを緻密に再現したことに集まる。しかし同時に華の70's ニュー・ソウルという逆行する時代のブラック・ミュージックをも消化しており、彼らのアイデンティティはその手法にこそ見出される。
「Summer Soul」や「Orphans」はマーヴィン・ゲイさながらの心地よい都市感を演出するが、往年のシンガーたちにはない閉塞感や焦燥感を感じさせる。伴奏が前景化されており、特にスネアの音像がソリッドであるからだろう。ではなぜそうしたミックスが施されたか。髙城の唯一無二のヴォーカル──意図的にルースなピッチ感覚と、デリケートだがヒダのある歌声──を最大限に引き出しつつ、スムースなサウンドに調和させるためには、一定のレヴェルで伴奏を「対抗」させることが求められたのではないか。そうして鳴らされるサウンドは拍節のくっきりとした「東京の音」であり、余裕を見繕ったつもりでも少し急いた日々を暮らす、まさに東京の時間感覚そのものだ。
本作の物語から読み取られる“Obscure”とは「多重構造の融解」であるが、音楽的にもそのアイディアは共有される。異なる時代のブラック・ソウルを濾して生まれた容器に、日本のソウルが宿された。単にレプリカと呼んでは彼らの魂を見落としかねない。音楽が終わる頃には、あなたの地図は書き換えられるだろう。(中村京介)