INTERVIEW : 冷牟田敬×関口萌
ーー今回の音源はびっくりしました。トラックが分かれてないと思ったら、1曲1曲がアレンジされてメドレーになってて。パラダイスらしいなとも思いますけど、このアイデアは?
冷牟田敬(以下、冷牟田) : 呼詩のアイデアなんですけど、今回の作品は、もともと1枚組でリリースするはずだったんです。でもアルバムの核となる「現在先行形」っていう曲が出来上がって、もう尺的に、その時点でとんでもなく1枚を超えてたんです。だから曲数をかなり削って、さらに曲そのものの尺を削って短いバージョンにしたり…。「光る夜」とか6曲メドレーでまとめてますけど、本当は5分以上ある曲を10秒ぐらいに縮めたんです。
関口萌(以下、関口) : でも、まぁ結局はまぁ、2枚組にしようっていうかたちに最終的にはなったんで。
冷牟田 : 結果的になんですけど、でもこれはこれでおもしろかったんじゃないかなって思いますけどね。最後がこの2曲っていうのは。
ーーでも1曲をそんなに大胆にアレンジし直すというのはすごいですね。
冷牟田 : でも、持ち曲さらにアルバム2枚分ぐらいはまだ残ってるんで。やっぱり曲が多すぎるからこういうことになってしまうっていうところはありますね。コンスタントに思うがままに、ポンポン… 出したいんですけど難しい。ので、こういう感じになっちゃうんですね。2年間に1回で、2枚組、みたいな。本当は、前のベースがいたときに、続けざまに2枚組のアルバムをつくる予定だったんです。でもベースがいなくなって、活動が止まって…。だから、そのとき音源にしてない新曲を… それがまぁゼロになって、そのときすごい、自分のなかで、なんだろ、次につなげるために、かなり頑張って作った曲がですね、このままなかったことにされるのは絶対に嫌だ! というのがあったんですね。
ーーああ~。
冷牟田 : なんで、すごい悔しい思いをしたっていうのはありますね。そういう溜まってた… そういうのがあるから、このアルバム… で、こういう感じになってたんだと思います。溜まってたから。
ーー2年前にパラダイスのベースが抜けちゃったときに、冷牟田くんはいまおっしゃってたように曲を出さないと終われないっていうのがあったんですよね?
冷牟田 : はい。終われないっていうかまぁ、それがなきものにしてやるなんて、今までやってきたことはなんだったんだ?! っていう。やっぱり僕なんてもともとギターが弾けたとか、バンドをやってたとかじゃないですからね。ド素人で、いきなり呼詩にモキックスに入れられて。逆にそういう人間だからこそできることを、ここにブッ込んでるんですここに。下手にいろいろバンド経験とかがあったら、やっぱりこんなバランスのバンドっていうのはできないと思うんですけど、でもそういうところからもともと僕は外れてるんで、別になんか、そんなのはどうでもいいんで、まぁやりたいと。じゃなきゃ、なんのために曲を作ったんだ! っていうのがありまして。で、できたんですね。
ーーなるほど。萌さんは2年前どう思ったんですか?
関口 : 2年前?
ーーCDが回収になって、ベースが抜けて、活動が止まるかもってなったとき。
関口 : うーん、まぁ、単純に、ショックでした。
冷牟田 : 彼は「やめる」っていうことを何度も言いましたね。
ーーああ~。そういう気持ちがありながら、それでもパラダイスを続けてきたのは?
関口 : うーん、まぁやり切りたいなぁっていうのは… あるから。だからうまくいかなくても、何とかしなきゃっていう気持ちはあるし。まぁただこれでやめたら、たぶんまぁ、なんか中途半端ですよね。自分としても。
冷牟田 : でも俺からみると、2年前にパラダイスが終わってたとしたら、萌くんはなんにも困らなかったんじゃないかっていうぐらいの状況なんだけどね。
関口 : なんにも困らなかった?
冷牟田 : なんにも困らなかったっていうのは、アンダーボーイズやったりとか倉内太くんとやったりとか、人脈がどんどん増えていって、まったくその、むしろそっちのが幸せなんじゃないのかなって、萌くんにとっては。
関口 : うーん… 呼詩に対する… やっぱ一回もう、本当に… 認められないっていうか、理解できないんじゃないかって思ってしまったことはあったんで…。
冷牟田 : それは今もあるでしょ?
関口 : あるけど、このアルバムは…。
冷牟田 : それを帳消しにするものがあったと?
関口 : うん… 呼詩は本当にすごいんだなって。すごいことをできるんだなって。いうのは思いました。呼詩にしかできないことだって。だから僕はそれについていったというか。
冷牟田 : うん。呼詩は絶対にすごいんですよ、やっぱ、ねぇ、あいつはフロントマンとして異質な存在で。ぜんぜん健康的じゃないし。でもこのバンドっていろんな要素が入ってるがゆえに混沌としてるし、売れないし、分かりづらいし、っていうところがあると思うんですね。そこで、だから、呼詩がすごいことをすることはわかってたんですけど、自分ももうそれに引けをとらないぐらいのギターを弾こうと思って。なんかそういう意味で、いろいろ不安定だったバンドのバランスが、まぁ行き着くところまで行き着いた感はあるんですよね。
ーーなるほど、パラダイス自体のバランスの比重が変化しつつあるんですね。じゃあ先ほど萌さんの活動の幅が増えたって話してましたけど、その中で萌さんにとってのパラダイスっていうのはどういうものですか?
関口 : まぁロック・バンドです。だから、カッコつけなきゃいけないし、カッコつけてナンボっていうか、いくらでもカッコつけなきゃいけないんじゃないかなって。
ーーああ~、なるほど。確かに手の届かない存在ですよね。身近にいる青年がやってるバンドっていう魅力もあると思うんですけど、パラダイスは偶像のような、永遠の憧れっていうか。
関口 : うーん、でもカッコつけるってけっこうダサいなって思うこともあるんですよね。矛盾してるけど(笑)。でも笑いに落としたりとか、それは逃げじゃないですか、自分を貶めたり、卑下したり、僕はけっこうやってきちゃったんですけど、でもやっぱり逃げだなぁって思うし、そういうキャラクターで僕がやることは簡単なんですけど、でもやっぱ、カッコよくないし。逃げてるんだなぁって思うから。だから、誰が悪いからこうなってるとかじゃなくって、みんなが同意して動いてるから、バンドは。個人じゃないんで。だからなぁ、終わんないんですよね。
全員がバラバラなのは、この先も絶対に変わらないですから
ーーなんか話を聞いてると、パラダイスって本当に生き物みたいなバンドですね。
関口 : うん、生き物ですね。
ーーまぁバンドがそもそも生き物っていう表現をされますけど、本当にどうなるか分からない。稀なバンドですよね。
関口 : うん。まぁそういう言い方もイヤなんですけどね。普通にやってるっていうだけなんですけど、それだけで話は終わらないっていうか。
ーーうん、パラダイスは自分の深いところとつながってるんですね。
関口 : 深いですよ。だって、本当に10年とか一緒にいるんですからね。呼詩のことはいまだに怖いなぁと思ったり、イヤだなぁと思ったり、でもおもしろいなぁと思ったりすごいなぁと思ったり、しますから。あの、でもみんなそうですよね。人と深く関わったら。
ーーうん。
関口 : でもすごい、パラダイスがここまでやるに、瀬尾ちゃんの存在がやっぱり大きくて…。
冷牟田 : もちろんです。大前提としてベースがいないと活動が続かないですからね。
関口 : 僕は個人的にもすごい助けられたんですよ。瀬尾ちゃんはバンドを客観的にみれる存在で、ベースは1からですけど、呼詩のことも、あいつが何を言いたいのかとか、そういうことを、まぁ分析というか、説明してくれるところがあって。
冷牟田 : なんかどうしても男同士だと難しいんですよ。性別の要素だけではないけど、やっぱり男だとさ、なんか、逃げてしまうじゃないですか、呼詩から。でも瀬尾ちゃんはいままでで一番長いかも。2年超えましたか?
関口 : うん。
冷牟田 : 2年超えたんで今までで一番長くやってますね。
関口 : まぁちゃんと呼詩に接することができるひとっていう意味では…。
冷牟田 : 初めてかもしれないね。

ーーやっぱりパラダイスは圧倒的にロック・バンドで、しかもこの時代にあんまりいないオーラを持ってて…
冷牟田 : やっぱりちょっと時代と逆行してますよね。
関口 : 逆行?
冷牟田 : 逆行っていうか、時代と… 合ってないっていうか。でも時代と合ってないものの方が俺は、残る可能性があると思うからそれでいいと思うけどね。でも今の時代からするとたいそうわかりづらいっていうところはありますけどね。
関口 : そんなつもりはないけどね。そうしたいと思ってやってるわけじゃないから。
冷牟田 : うん、でも結果的にそうなっちゃうんですよね。まぁ時代が違ったら売れてたというわけでもないけど。
ーーあの、カテゴライズはできないですよね。あと、好き嫌いもはっきり分かれると思います。
冷牟田 : まぁそうですよね。だからやっぱり、あの、普通のバンドといちばん違うのは、なんか、やっぱり、3人それぞれ自由にやれてしまうところが。そういうバンドはほかにいないですね。僕からみて。ほんとにひとつもいないと思います。
ーーみんなが曲を書けますしね。
冷牟田 : そうですね。曲を書けて、全員孤立してるというか。バラバラなものが、何かのタイミングで、たまたまこう、クロスしたときに、バンドとして成り立つっていう。そういうバンド自体があんまりないですね。だから全員もってくるものがバラバラだし、普通はやっぱり、誰かひとりがいて、そのひとの世界観をみんなが補強していくっていう、そういうのが一番分かりやすいし、伝わりやすいし。でもパラダイスはそういうのじゃないですからね。だから、そういうものがいま、なかなか難しいんだと思います。わかりにくいですから。でも全員がバラバラなのは、この先も絶対に変わらないですから。だからそれぞれが何をやれるか、ですよね。そういうことだと思ってます。でもやっぱりこのアルバムは2年前に作ってたらこの内容になってなかったんで、なんかそういう、前のアルバムを出して、この道のりを辿ってきたからこその内容になってると思います。本当にこの2年間悔しかったですけど、それがあったからこそ、こういう内容になってるという気がします。なのでまぁ、これの後っていうのは… わからないですね。でも曲はたくさんあります。だから、もっと作らないとダメだと思います。
>>>呼詩(+関口萌)へのインタヴューはこちら
>>>メンバーによるセルフ・レビュー&コメントはこちら
PROFILE
Paradise
2000年代伝説のバンド、Mokixxを母体に2006年より活動開始。2010年アルバム『Alcohol River』、2011年2枚組アルバム『N'importe ou hors du monde』、同年4曲入りシングル『Blue devil, Baby evil』を発表。2012年、新ベーシスト瀬尾マリナ(咽笛チェインソ〜BARAMON)加入。圧倒的に不穏な雰囲気を漂わせ、死者の世界までもを求める彷徨詩人にして神秘への憧憬を歌う稀有なボーカリスト呼詩を中心に、(昆虫キッズや豊田道倫理&mtvバンドでも活躍する)冷牟田王子のギターは触れば切れんばかりの鋭く尖った光を放ち、Mokixx時代からの盟友、ドラマー関口萌は現在活動中のアンダーボーイズでおなじみのポップな面をこのバンドに持ちこみ、ヴォイスパフォーマーとしても知られるベーシスト瀬尾マリナが新たな色を加える、Paradiseはこの4人が奏でるどこまでも独創的で屹立した美しさを魅せる覚醒ロック・バンドだ。
Mokixx
全身全霊稀代のボーカリストこうた(現・宮腰呼詩)とドラマー関口萌を中心にギタリスト冷牟田王子が加わり2004年から約3年活動したMokixx(正式名称 Nhisteer-theer-neats-mokixx-droogue)は、Paradiseの前身として知られるが、2006年12月24日(渋谷サイクロン)、その最後のライヴで販売された9曲入りCDRアルバム『ファーストラスト』が数人の手に渡り、このたった1枚の音源が今に至るまで噂が噂を呼んだ伝説のバンドである。