2013/02/15 00:00

2010年に発表した前作『インフィニット・アームズ』がグラミー賞にノミネートされ、ここ日本でもサマーソニックへの出演等で着実に人気を獲得してきたロック・バンド、バンド・オブ・ホーセズ。彼らのキャリアの1つの到達点ともいえる4枚目のアルバム『Mirage Rock(ミラージュ・ロック)』が日本でも1月23日にリリースされ、2年半振りの来日公演が「Hostess Club Weekender」を舞台におこなわれた。最新作ではローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリン、イーグルス等を手掛けてきた大物プロデューサー、エンジニアのグリン・ジョンズを起用し、前作の壮大な世界観とは違う、バンドとリスナーの距離が近づいたような音像を完成させた彼ら。親しみやすいロック兄ちゃんといった印象ではあるものの、今回のライヴではすっかり貫録あるアメリカン・ロック・バンドとしての姿も堂々と披露してくれた。今回はライヴ前日にRyan Monroe(キーボード、ギター)、Creighton Barrett(ドラム)、Tyler Ramsey(ギター)の3人に話を聞いた。

インタビュー&文 : 岡本貴之

アメリカを代表するロック・バンドへと成長を遂げたバンド・オブ・ホーセズ

Band Of Horses / Mirage Rock

【配信価格】
mp3、wav共に 単曲 200円 / アルバム 1,500円

グラミー賞にもノミネートされた、アメリカ・シアトルのロック・バンド、バンド・オブ・ホーセズの4作目のオリジナル・アルバム。ビートルズ、ボブ・ディラン、ローリング・ストーンズ等を手がけた名匠、グリン・ジョンズをプロデューサーに迎え、ロスアンゼルスのサンセット・スタジオでレコーディング。

「演奏のエネルギー」をアルバムに表したかった(Ryan Monroe)

——皆さんは昨夜来日したばかりのようですが、お疲れではないですか?

Ryan Monroe(キーボード、ギター) : シンガポール経由で来たからそれほどでもないよ。

——2010年のサマーソニック以来の来日になりますが、冬の日本はいかがですか? 今年の冬はみんな寒くて凍えているんですよ。

Creighton Barrett(ドラム) : オーストラリアとシンガポールでライヴをやってきたんだけど、向こうは今真夏なんで、30度以上の炎天下でのライヴだったから本当大変だったよ。ドラムは後ろだから良いけど、前にいるメンバーは直射日光でもっと大変だったと思うよ(笑)。だから逆に日本の気候が心地良いよ。僕が住んでいるボストンも寒いしね。

——前作の『インフィニット・アームズ』リリース以降、日本でのバンドの人気も定着しましたし、世界的にもビッグなバンドになった印象がありますが、皆さんの生活に変化はありましたか?

Creighton : レコーディングして、ツアーに出るっていう生活自体は変わらないけどね。音楽へのアプローチも変わらないけど、ファンをどんどん取り込んで増やして行きたい気持ちはいつも持っているんだ。だからもっと日本で過ごせたらっていう気持ちもあるよ。

——今回のアルバム『ミラージュ・ロック』はグリン・ジョンズがプロデュースしていることが日本でも話題になっていますが、どういう経緯で彼を起用したんでしょうか?

Ryan : グリン・ジョンズはライアン・アダムスのアルバムのプロデュースをしているんだけど、ライアン・アダムスはマネージャーが僕らと同じなんだよ。それでマネージャーから「グリン・ジョンズに頼んでみたらどうか?」って提案があったんだ。
Creighton : 「そんな大物に頼めるなら是非! 」ってね(笑)。

——アルバムのどんな点にグリン・ジョンズが手掛けた特徴を感じていますか?

Ryan : コンピューターを使わない方針だったから、それが音には表れていると思うよ。それと「完璧な演奏」よりも「演奏のエネルギー」をアルバムに表したかったし、それは表現できたと思う。
Tyler Ramsey(ギター) : あとはアルバム全体的な曲の選択に、彼の趣味が出ていると思うよ。

——これまでのアコースティック・サウンドやカントリー・チックな曲調に加えて、1曲目の「Knock Knock」をはじめとする疾走感を感じる曲が増えていますけど、その辺りは意識して変化を狙ったんでしょうか?

Creighton : もちろん。それが当初の目的でもあったし、グリン・ジョンズが参加することで、彼の入れたい曲・自分達の入れたい曲を話しあった結果が表れてるんだよ。それぞれの曲がどんな音楽から影響を受けていうものかも、アルバムの中でわかると思う。僕たちはアップ・テンポの曲も出来るし、ハーモニーが綺麗な曲も、なんでもできるっていう事を示したかったんだよ。どんなバンドでもそうあるべきだと思うしね。

自分達が作る音楽は聴く環境によって変わることはない(Creighton Barrett)

——前回までは壮大なスケール感を感じたんですけど、今回の『ミラージュ・ロック』では、バンドとリスナーの距離が近くなったように聴こえました。親しみやすさが増した、というか。

Tyler : そうだね。レコーディング自体、ライヴのようなセット・アップで、何度も良い音になるまでテイクを重ねたし、壮大な音ではなくて、その瞬間の音を捉えることに重点を置いたんだ。前回までのアルバムで、プロツールスを使っていくらでも音を重ねて作れるということはわかったから、今回のアルバムではグリンが加わった事もあって、デジタルの助けを借りずにレコーディングしたことでライヴ感が出たと思う。
Creighton : その結果、リスナーとの距離が近くなったというのは、アルバムが出来上がってから後で感じたことだね。

——例えば、「Long Vows」という曲は皆さんが近くで演奏してくれているようでとても気持ちがリラックスしましたしエネルギーを貰えました。

Ryan : それは力になれて嬉しいよ。

——ありがとうございます。皆さんの音楽への愛情が伝わってきました。

Creighton : 音楽は人の力になれるものだからね。

——ところで、『ミラージュ・ロック』というアルバム・タイトルにした理由はなんですか?

Ryan : 『ミラージュ・ロック』は、元々ベン(ヴォーカルのBen Bridwell)が作った曲なんだ。この曲は結局アルバムには入らなかったんだけど(※日本盤ボーナス・トラックに「Mirage Rock (SONIC RANCH SESSIONS)」として収録)タイトルが格好良いから、何かに使えるなと思ってアルバムのタイトルにしたんだよ。でも、アルバムのタイトルにしてから、ミラージュ(蜃気楼)のロックっていうタイトルと曲全体のイメージがうまく繋がってきているっていう実感があるんだ。
Creighton : クリス・ウィルソンっていう友達がアルバム・ジャケットを撮ってくれているんだけど、そのジャケット写真もタイトルも曲も、自分達の中で日々消化している感じがするよ。

——ライアンは、昨年ソロ・アルバムを出しましたね。

Ryan : 聴いてくれたんだ(笑)?

——はい、聴かせて頂きました。ELOを彷彿とさせる曲があったり、華やかなアルバムでしたけど、ソロを出した事で今回のBand of Horsesのアルバムに影響がありましたか?

Ryan : もちろん、影響はあると思うよ。新しい作品を作る時は、必ずその前に作った作品は影響してくるからね。ソロ・アルバムは一人でスタジオに籠って作ったんだけど、どういう風にしたらうまく行くか、試行錯誤しながらやったことが今回の『ミラージュ・ロック』に還元できたと思う。あとはテープとコンピューターの比較だね。僕のソロではコンピューターを思う存分使っていたから、今回バンドでシンプルにテープで録音したのは、また違う感覚でスタジオに入るのが楽しみだった。自分の声をテープで聴いた方がより良いのがわかったよ(笑)。

——なるほど新しい発見でしたね(笑)。皆さんの作品はCDでも配信でも聴くことができますが、今はCDショップが閉店したり、YouTubeだけで音楽を聴いたりする人が多くなっているようです。自分達の音楽がどういう風に聴かれているかは気になりますか?

Creighton : ヴァイナル、CD、コンピューターの順に音は悪くなっていくと思うから、コンピューターだけで音楽を聴いている人がいるのは悲しいことだとは思うけれど、でも音楽は音楽だからね。自分達が作る音楽はそれによって変わることはない。自分達の音楽が人々の心に届くことを願うのみだよ。それに、聴く形式で音楽の良し悪しが決まるわけじゃないからね。「悪い音楽を良いスピーカーで救うことは出来ない」し、逆に「良い音楽が悪いスピーカーで悪くなることはない」んだよ。

——なるほど、その通りですね。明日の「Hostess Club Weekender」は、どんなライヴになりそうですか?

Creighton : (即座に)ラウド(笑)!
Tyler : アルバムの曲を沢山やるし、ラウドにやるつもりだよ。でも、ライヴで演奏する曲はベンが直前にセット・リストを決めるから、僕らも何を演奏するか今はわからないんだ(笑)。でもそれがこのバンドの好きなところだよ(笑)。

——(笑)。今年はコーチェラ・フェスにも出演が決定していますね?

Creighton : そうなんだよ。周りに何にも無い所だけど(笑)。凄く楽しいフェスだから待ち遠しいよ。

LIVE REPORT : Hostess Club Weekender@Zepp DiverCity TOKYO

初来日の若手バンド、パーマ・ヴァイオレッツが若さ爆発の奔放なライヴを見せた後のステージに姿を現したバンド・オブ・ホーセズのメンバー。なんとも言えぬ大物感というか、大人のロックのオーラがステージに充満する。ギッシリ詰まった場内の観客から歓声があがり、ライヴは「Islands On the Coast」からスタート。2曲目でキーボードのライアンが素早くギターを持ってステージ前方へ。クレイトンのドラムに煽られて、激しくコードを刻みながら曲は「NW Apt.」へ。ギターとベースを抱えたメンバー4人が並ぶ姿は壮観だ。

ライヴ感満点の曲に観客も一気に盛り上がる。「Infinite Arms」「Laredo」など、意外にも『インフィニット・アームズ』からの楽曲が前半を占めていたが、中盤でニュー・アルバム『ミラージュ・ロック』の1曲目、「Knock Knock」が披露され、一際大きな歓声が挙がる。爽やかで広大な大地を疾走するかのようなコーラスが印象的なナンバーだ。まさにアメリカン・ロックの王道を行くようなこの曲が、グリン・ジョンズがプロデュースしたアルバムの口火を切るのは実に象徴的だ。続いても新作から「Electric Music」。前半はどこか声が出にくそうな印象だったヴォーカルのベンの声も伸びてきた。ベースのビルが手を叩き、観客を煽る。キーボードとギターを交互に弾くライアンが、赤い照明を浴びながらエモーショナルなギター・ソロを聴かせた瞬間は会場が70年代にトリップしたかのようだった。対して、ステージ上手に立つギタリストのタイラーはソロを弾かず、そのデュアン・オールマンを彷彿とさせる風貌でSGを抱え黙々とバッキングしている。そしてサウンドを支えるクレイトンのタイトなドラム。実に安定したバンド・サウンドは、まるで60年代、70年代から演奏しているかのような錯覚さえ覚える貫録だった。ライヴは2006年のファースト・アルバム『Everything All the Time』から「The Funeral」を演奏して終了。

外国人の観客からライヴ中もしきりに声援が飛んでいたのが、彼らが大物になっても親しみやすさを感じさせる「ロック兄ちゃん」であることを証明していた。実に大らかで、尚且つダイナミズムに溢れたアメリカンなライヴであった。(text by 岡本貴之)

Hostess Club Weekender
2013年2月2日(土)、3日(日)
Live : VAMPIRE WEEKEND / BAND OF HORSES / PALMA VIOLETS / UNKNOWNMORTAL ORCHESTRA / FIDLAR / DIR
〈セットリスト〉
1. Islands On the Coast / 2. NWApt. / 3. Is There a Ghost / 4. AThe Great Salt Lake / 5. Infinite Arms / 6. Laredo / 7. Knock Knock / 8. Electric Music / 9. No Ones Gonna Love You / 10. The First Song / 11. Compliments / 12. Cigarettes,Wedding Bands / 13. Ode To LRC / 14. The Funeral

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PROFILE

Band Of Horses

2004年米シアトルで結成。06年サブ・ポップよりアルバム・デビュー。良質な楽曲、奥深い世界観、そして完成度の高いライヴが音楽メディアで評判を呼び、瞬く間に人気が上昇。10年に発表した3作目『インフィニット・アームズ』は全米チャート初登場7位(ロック部門2位)に輝いた。08年と10年にはサマーソニックに出演。2012年9月、海外先行リリースされた最新作『ミラージュ・ロック』は全米13位、全英20位を獲得している。

[インタヴュー] Band Of Horses

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