
文化祭という都会の理想郷
今回で2回目の開催となった廃校フェス。このイヴェントの存在を知ってから、この日が来るのをとても楽しみにしていた。何より「廃校を利用した文化祭のようなロック・フェス」というコンセプトはとても魅力的に思えた。
学校というのは一般社会から隔離された、ある種の治外法権を持つ場所だ。だからこそこの時期はどんな学生生活を送った者でも特別なものになる。現代はそれが弊害となって様々な社会問題も起こっているけれど、このイヴェントに参加する人のほとんどは、既に学生生活を終えて、それぞれ学校という場所に何かしらの思いを抱いた大人達だ。漠然とではあるが、これは待ち望まれていたフェスのひとつだと感じた。

まず結果から言ってしまえば、この主催者側が提示した「文化祭のようなロック・フェス」というコンセプトはとてもよい形で実現されていた。このイヴェントの最も大きな特徴は、各教室の催しが異なるイヴェンターに任されるショーケース・スタイルを取っている事だ。日本の音楽フェスではおそらく前例のないやり方だが、これも文化祭という事前の触れ込みがあった事で、お客さんにもスムーズに受け入れられていたようだ。オーガナイザー同士が必要以上に干渉せず、それぞれ独自に教室を飾り、練り上げた企画を披露するやり方は正に文化祭のようだったし、遊びに来る側はもちろん、見せる側の人間が楽しんでやっているのがとても伝わった。
基本的にはどの教室も一段高いステージを用意しておらず、もちろん機材等もそれぞれ持ち込んだものなので、純粋にバンドの演奏を観て楽しむような環境が整っている訳ではないが、その分演奏者と聴衆との立ち位置、距離がグッと縮まる事で、普段のライヴでは感じられないような親密な空気が作られていた(個人的にはそういった環境に置かれてフレキシブルに対応出来た者と相当苦戦を強いられた者をそれぞれ観られて興味深かった)。

ただ、問題点もいくつか見受けられた。まず入場ゲートでの取り締まりがあまりにゆるすぎる。何度か会場を出入りした際、再入場時に必要な学生証の提示を求められる事は結果的には一度もなかった。実際に僕が会場内で話した人の中には、何人か入場料を払っていない者もいた。今回の廃校フェスは前回以上にキャパを拡げ、収容人数を増やしたにも関わらず前売りチケットが完売したのだ。それなのにこのような対応では苦労してチケットを手に入れた人に対してフェアでないし、もし次回以降もこれだけの動員が見込まれるのなら、この点は必ず改善されなければならないだろう。
ショーケース・スタイルを取った弊害も少なからずあった。様々なスタッフが混在していた為に主催者側の趣旨を正しく理解出来ていない者も少なくはなかったようで、誘導されるお客さんに混乱を与えるような場面もいくらか見られた。多くの人が集まる場所には付き物だが、周囲の人への配慮が足りないお客さんもやはりいた。まだ2回目の開催というのもあり、集まる人間全てに主催者側の考えるフェスの在り方を浸透させていくのは現時点では難しいのだろうけど、関係者の意思統一はもっと徹底するべきだろう。

とはいえ、このフェスが現在数多く存在する大型フェスにはない開放的な雰囲気を作り出していたのは間違いなく、天候には恵まれなかったものの、参加者のほとんどはモラルに基づいた上でこの日を楽しんでいたと思う。「大体のフェスはライヴを観る以外にこれと言った楽しみがない」「オーガナイズが行き過ぎたフェスなんてもういらない」「お祭りならではの日常とはかけ離れた空間でありつつも、気軽に参加出来るやつがいい」そんな音楽好き達の声に今回の廃校フェスはしっかり答えていた。それはつまり、お客さんだけでなく、参加する全ての人間が心から楽しめるフェスであるという事だ。だからこの廃校フェスはこれからもずっと文化祭であってほしい。老若男女問わず誰もがそれぞれの楽しみ方を見出せるようなお祭りであってほしい。そんな誰もが求める都会の中心の理想郷に、今回の廃校フェスは大きな一歩を踏み出した。(text by 渡辺裕也)

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