ストレンジなサイケデリック・ビート・ミュージックの調べ——Yuta INOUE、初のソロ作品をハイレゾで配信開始

Seiho主宰のDay Tripper Recordsに所属するユニット、death flamingo into the memaiのメンバーとして活躍し、いま、関西のビート・シーンでじわじわと頭角を現しはじめているトラック・メイカー、それがYuta INOUEだ。そんな彼が、ソロとしては初のアルバム『Homemade Dust Collector』を発表した。そのサウンドは、スローなビートの上にあらゆるタイプの電子音を散りばめ、さらには女性の声をカットアップして配置したビート・ミュージック。一見、端正なエレクトロニカでありながら、どこかストレンジなヴェールに包まれたその音像は、日常の中にぽっかりと開いた異世界への入り口といった趣をもっている。J・ディラ以降のビート・ミュージックの流れをブラック・ミュージックではなく、エレクトロニカ・サイドにふった、そんな感覚もある。そんな本作を、OTOTOYでは24bit/48kHzのハイレゾで配信開始。さらに、収録曲の中から「掃除機に乗って」を1週間限定のフリー・ダウンロードでお届けしよう。アーティスト・イメージや各楽曲のタイトルなども含め、どこか人を食ったようなストレンジ・エレクトロの新鋭。レヴューとともにチェックしていただきたい。
>>「掃除機に乗って」のフリー・ダウンロードはこちら!!
(2014年6月11日24:00まで)
Yuta INOUE / Homemade Dust Collector
【配信フォーマット / 価格】
ALAC / FLAC / WAV (24bit/48kHz) : 2,000円(税込、単曲は各200円)
【収録曲】
01. 無尽駅
02. デジタル殺虫剤
03. 夢幻迷子センター
04. ピアノ奏者は砂まみれ
05. パーキングダンスクラブ
06. ベランダ夫人は夢を見た
07. 雨男禁止区域
08. 地下広告街
09. 脱法駄菓子専門店
10. 郊外サーカス団
11. 偏愛アナウンス
12. 掃除機に乗って
13. 喫茶スターサークル店内BGM
14. 追憶の市役所
Yuta INOUEが語るアルバム・コンセプト
経験したようなしていないような、行った事のあるようなないような、そういう曖昧な記憶の残りかすみたいな部分は大切だ! サァ! その残りかすだらけの埃っぽい記憶の部屋を強めのビートに乗って散策してみよう! 君の偽物の記憶を掘り起こそう! という胡散臭いアルバム。
ユートピアでもディストピアでもない、現実世界の延長から生まれた架空舞台
電子音楽ユニット"death flamingo into the memai"のメンバーとして活動を始め、現在ではbandcampを中心にソロ作品をリリースするYuta INOUE。関西ではユニット名義で多くのイヴェントに主演し、着実に名を広めつつある存在だ。そんな彼がこのたび、初のソロ・アルバム『Homemade Dust Collector』を発表した。つねに進化を続ける関西ビート・シーン。その最先端から発信されるサウンドは、果たしてどのようなヴィジョンを生み出しているのだろうか。
INOUEはベース・ミュージックやブロークンビーツを軸に据え、トラックを生み出す。この点から、スタイリッシュなイメージを思い浮かべる人が多いだろう。本作『Homemade Dust Collector』は淡々としつつも肉体的な打ち込みで構成され、緩やかな抑揚によって進行していく。終始立体性を意識させる空間音によって、スモーキ―な雰囲気も漂っている。そしていくつもの音が横切り、メトロポリスを闊歩するような錯覚を引き起こさせてくれるのだ。

しかし研ぎ澄まされた音像の中に、どこかポップな印象も見え隠れする。これはたびたび織り込まれるチップチューン調のサウンドによるもので、楽曲が堅苦しくならない、いわば緩和剤のような役割を果たしているといえるだろう。また人の声をカットアップ / コラージュしたサウンドが、様々な場面で現れる点も見逃せない。有機質な「声」を切り刻み、無機質な「音」としてとらえる試みは、架空と現実を交錯させる演出を効果的に彩っている。音のつなぎ目をビート化させる音作りと相まって、じつに違和感なく混ざり合っているのがわかるはずだ。
ユートピアでもディストピアでもない、現実世界の延長から生まれた架空舞台。この作品ではリスナーの生活環境を匂わせながらも、近未来的な世界観が広がっている。INOUE本人がアルバム・コンセプトとして語った「胡散臭さ」とは、コンマ単位で歪んだ記憶を指し、彼はそれを肥大化させ音に乗せていく。各楽曲のタイトルからもその世界観は読み取ることができ、INOUEの脳内で膨らむイメージをつかむヒントとしても成り立っている。歌詞を必要としないビート・ミュージックでありながら、ここまで大きな物語性を想起させるのは特筆に値する。音を通して的確なイメージを引き出すその腕前は、今後のシーンの中でもことさら異様な存在感を示しつづけるに違いない。
(text by 高橋拓也)
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PROFILE
Yuta INOUE
2011年より電子音楽ユニット"death flamingo into the memai"として活動し、2012年、Seiho主催のDay Tripper Recordsよりデビュー・アルバム『fictional pop』をリリース。2013年には〈sonar sound tokyo〉に出演を果たす。そのほか〈oil works technics osaka〉など、関西を中心にさまざまなイヴェントへ出演。その後、同ユニットを相方に任せ、 Yuta INOUEとしてソロ活動を開始。これまでに自身のwebページにていくつかのデジタルEP、アルバムを発表し、kidkanevil & submerseによるMIXに選曲されるなど注目を集める。自身のリリース作品のジャケット・デザイン全般を制作するほか、自身以外のアーティストのジャケット・デザインやイラスト提供を手掛けるなど、デザイン面でも才能を発揮している。