自分が聞いていた音楽で何が歌われていたのか、立ち止まって耳をすます
柔らかなアコースティック・ギターの音がループする。リラックスして歌うヴォーカルのメロディー・ラインはキャッチーだ。その上にシンセやトロンボーンやエレキ・ギターの音が控えめに乗っている。様々な音の角が丁寧に落とされ調和していて、心地よく通り過ぎていくロックンロール。ただその流れが、時折ふっと淀む。聞き手ははっと立ち止まって考える。感受性とか死とか愛みたいなものについて。Gotchのファースト・アルバム『Can't Be Forever Young』から聞こえるのはそんな風景だ。
後藤正文のソロ活動は2012年に開始。本作はこれまでレコードでリリースされてきた3曲を含む12曲で構成されている。上でも触れたとおり、アコースティック・ギター、ベース、ドラムとシンプルなバンド編成をメインに、いくつかの楽器や音がさりげなく乗る、開放的でクラシックなロックンロールを聞かせる。ザ・シー・アンド・ケイクなども手がけるジョン・マッケンタイアによるミックスは、それぞれの楽器の音色を柔らかく、バランスよくまとめている。特徴的なのは、ほぼ全編に渡ってヴォーカル部分にハモリやコーラスが重ねられていることだ。これによって優しくポップなメロディーがよりよく響き、ヴォーカルが楽器の一つのように楽曲に溶け込んでいる。一方で、音の響きが先行していて、発される言葉自体はどこかファジーでもあり、何気なく聞いていると楽曲全体が心地よくするすると流れていってしまう。ただ、そんな中で「それでいいよね」とか「もうダメ」とかそういった、普段遣いの言葉がふっと耳に入ってくる。その諦めみたいな言葉の違和感。自分が聞いていた音楽で何が歌われていたのか、立ち止まって耳をすますことになる。後藤が歌っているのは普通の生活の中で通り過ぎて行く時間であり、それを忘れ去ろうとするような鈍感さに対する疑問だ。収録曲では四つ打ちのバスドラ、ギターのアルペジオのループを中心に進む爽やかな楽曲に乗せ、こうしたテーマをラブソングとして歌う「Lost」が出色。
いつまでも若くいることはできない。その当たり前のことを説教がましく聞く必要はない。『Can't Be Forever Young』の開放的な楽曲は単純な音楽として日常に寄り添う。僕らはその時々で立ち止まり、死とか愛とか感受性について思い出せばいいのだ。(Text by 小林翔)