
「音の妖精」の異名を持ち、アルゼンチン音響派の代表格として知られているアレハンドロ・フラノフの2002年のセカンド・アルバム『Yusuy』と2004年のフォース・アルバム『Opsigno』の2作が再発される。この再発は2007年以来の彼の来日に合わせたものだが、このアルゼンチン音響派とはなんだろうか。この言葉も使われ始めてから10年以上も経っているし、この言葉を振り返ることでフラノフの音楽について考えてみよう。
Yusuy / ALEJANDRO FRANOV
【配信価格】
WAV 単曲 200円 / アルバム購入 2000円
mp3 単曲 150円 / アルバム購入 1500円
【Track List】
01. Prepampa / 02. Parque / 03. La Rural / 04. Chacra / 05. Pasando El Mar / 06. Ardilla / 07. Yusuy / 08. Huemules / 09. Pexa / 10. Tanbien Soleado / 11. Intro / 12. Dentro / 13. Arpa / 14. Para La Mbira / 15. Ritmoshu / 16. Btan / 17. Memoria / 18. Carera / 19. Doce Gotas
Opsigno / ALEJANDRO FRANOV
【配信価格】
WAV 単曲 200円 / アルバム購入 2000円
mp3 単曲 200円 / アルバム購入 1500円
【Track List】
01. Tren / 02. Anubis / 03. La Puerta De Los Suenos / 04. Isis05. Cigarras06. Ayodhya / 07. Opsigno / 08. Shiva / 09. Mbira / 10. Navidena / 11. Aguas Claras / 12. Cupido
音響派の中でも最も個人的で流行や時代性から遠い存在
2001年のフアナ・モリーナのアルバム『Segund』が山本精一やバッファロー・ドーターといったミュージシャンによって取り上げられ、話題になった。そして、フアナと関わりのあるアレハンドロ・フラノフやフェルナンド・カブサッキも知られるようになり、その周辺のシーンをアメリカのシカゴ音響派との類似からアルゼンチン音響派と呼ばれるはじめる。シカゴ音響派という名称の由来をここで書くことはしないが、その音楽性は電子音楽、現代音楽、ジャズ、ロックなどの豊富な音楽的背景を持ち、それらをプロ・ツールスなどに代表される発達した録音技術によって自在に録音・編集し、統合することで作り出されたものだった。アルゼンチン音響派もこれらと類似したバックボーンを持っているが、インタビュー(※「なんだか気になるアルゼンチンのアンダーグラウンド・シーンを訪問!!」)などを読むと偶然共通性のある音楽になってしまったようだ。
しかし、アレハンドロ・フラノフはどちらの音響派の中においても少し変わった存在だ。ひとつには民族音楽の取り入れ方にある。シカゴ音響派にはジョン・フェイヒーなどをはじめとしたアメリカのフォーク・ミュージックを再発見し、自身の音楽に取り入れていくという側面がある。フラノフも南米の民族音楽を取り入れているのだが、それだけには留まっていない。彼の楽曲にはよくシタールが用いられているし、『Opsigno』ではタブラやホーメイ、その他のアルバムでは親指ピアノやアルパが使われていたりと各地の民族楽器が用いられている。そして、音響の面でも特徴的なことがある。例えばシカゴ音響派の楽曲が、楽器の鳴り方がよくわかるような澄んだ音響が多いのに対し、フラノフの楽曲は音があまり分離せずに一体となるような曖昧な音響になっている。この音響の特徴は、あまり音響派と聞いて想像するようなサウンドではないだろう。むしろ、ダブのオリジネイターの一人であるリー・ペリーなどに近いような感触の音響なのだ。
これらの特徴について考えると。彼の音楽には、様々な音楽を先端的な録音技術で統合して聞かせることで音楽とはなにかという問を発する、というような音響派のメタ音楽的な側面が薄いのだ。彼の楽曲はそうした楽典的な発想ではなく、おそらくより感覚的なものだ。それは音楽産業ができる前の民族音楽を空気感込みで想像し、各地の楽器を使って再現することでまた架空の民族音楽を作っているのだろう。つまり、彼は音響派の中でも最も個人的で流行や時代性から遠い存在であり、それが魅力になっているミュージシャンなのだ。そのような感覚が彼が「音の妖精」と呼ばれている理由でもあるのではないか。 (text by 滝沢 時朗)
アレハンドロ・フラノフの作品はこちら
ALEJANDRO FRANOV / AQUAGONG
世界中のあらゆる楽器を使いこなす音の妖精アレハンドロ・フラノフが、熱唱!!! 遂に、アレハンドロ・フラノフが歌いました! 実にフラノフらしい一風変わったコミカルなメロディに呪文のようなキャッチーな言葉の響き、そしてのびのびとした歌いっぷり。時折聞こえるゴング(鐘・鈴・銅鑼)はクリアだったりエディットされていたり。無限に溢れ出る水のように、歌い続ける鳴り続ける。
ALEJANDRO FRANOV / CHAMPAQUI
アルバム・タイトルとなっている“チャンパキ”とは、アルゼンチンの中心に位置するコルドバ州にある海抜2,790mの山のことで、フラノフはその山々や周辺に広がる豊かな自然から様々なインスピレーションを受け、今回のアルバムを制作するに至ったといいます。シンセ、ゴング、笛などの多様な楽器による幻想的なドローンが静かにたゆたうアンビエンス作品で、ひときわメディテーショナルな世界観を持っているので、アンビエントのリスナーにおすすめです!
ALEJANDRO FRANOV / AIXA
「音」そのものに焦点をあてた音響彫刻的な美しさを誇るアルバム。本作では、前作でメインに使用されていたムビラ(親指ピアノ)、シタール、パラグアイ・ハープやチャイニーズ・ゴングを使用しつつも、特筆すべきなのは電子楽器を多用している点。それにより電子的なサウンドの比重が大きくなっている。まるで子供が初めて電子楽器を手にして、無邪気に演奏しているような佇まいだが、それは繰り返し作っては削り、感覚的にシェイプされたフラノフ節そのものなのである。快心の新作!
RECOMMEND
Stafraenn Hakon / Gummi
アイスランドの至宝スタフライン・ハウコン5枚目のアルバム。幽玄ギター・フィードバックとエレクトロニクスを織りまぜたエモーショナルでいて美しくもある極上のロック。初めて歌ものに重点を置き、様々な場所で録られたハープオルガン、バンジョー、チェロ、ヴィブラフォン、ローズピアノは風景を映し出す。
Sami Abadi / amber & topaz
"どこでもないどこか"のサウンド・スケープ!! オーガニック・サイケデリアを特徴づけた前作の評価もすこぶる高い、電子ヴァイオリン/マルチ楽器奏者、サミ・アバディが登場!! 身の回りのあらゆるもの-民族楽器からおもちゃ、電子音まで取り込む自由で柔軟な発想、マジカルで深く潜っていくような距離感覚、ノマディックで幻想的な世界観は彼ならでは。アンビエント〜アヴァン・トイ〜民族音楽まで幅広い音楽ファンに。
MARIANA BARAJ / Churita
彼女の声とパーカッション、チャランゴ(アンデスの弦楽器)、親指ピアノとアエロフォノス(Aer fonos)という伝統楽器の笛。彼女の原点に帰るような、フォーキーで美しいメロディーと、フォルクローレのリズムを解体した世界観はさらに進化し、幻想的なサウンドスケープを提案しています。そして彼女の女性的で大地から湧き出るオーガニックな歌声は柔らかさ表現力を増し、土臭いながらも繊細な響き。日本での評価も高く、ワールドファン以外にも知られ、独自のアンビエントを創作するアレハンドロ・フラノフが数曲アコーディオンでゲスト参加しています。
RAVO / RAVO
「何か宇宙っぽい、でっかい音楽をやろう」と、勝井祐二と山本精一を中心に96年結成。バンドサウンドによるダンスミュージックシーンの先駆者として、シーンを牽引してきた。結成15年の活動を総括し、さらなる新次元に到達した最高傑作。原点回帰ともいえるミニマリズムからの爆発的な飛翔感、LIVEのダイナミズムと緻密なスタジオワークが究極に融合した新年代のマスターピース! ROVO屈指の名曲「ECLIPSE」を収録。
PROFILE
ALEJANDRO FRANOV
「アルゼンチン音響派」最重要人物の一人。ブエノス・アイレス在住。 シタール、アコーディオン、キーボード、ギター、パーカッション、ボーカルと何でもこなすマルチ奏者。フアナ・モリーナのプロデュースや、モノ・フォンタナの作品にも参加、2007年にはフェルナンド・カブサッキらと来日、ROVOの勝井祐二、山本精一ら多数とコラボレート。その後、ネイチャーブリスより4枚の国内盤をリリースし、アルゼンチン音響派を定着させる。