〈YOUR NAME〉から〈FAHDAY〉へ

〈FAHDAY〉のステイトメントにもあるように、加藤は「パンクという言葉の意味」を思考し、実践してきた。それは既存の枠におさめられない、オルタナティヴなありかたを模索することなのかもしれない。そんな命題を抱えつづけてきた加藤の、場をもちいた実験は2019年開催の〈YOUR NAME〉から続いている。「お互いの名前を呼び合うことで、対等な個人として存在しよう」と呼びかけたそのイベントは、希望者全員にオープニング・アクトの機会をもうけ、手書きの名前とメッセージが記されたチケットをバンドが手で刷り、当日のもぎりは加藤自身が行っていた。
そこからさらにコロナ禍を迎え、半強制的に苫小牧での生活を繰り返すなかでみえたという、自身の土地の文化を糧に〈FAHDAY〉は開催されることになった。その姿勢は、苫小牧のクラブやライヴハウス、個人経営の飲食店と共同開催、というイベントのありかたにも現れている。かつてNOT WONKが掲げた、“個人として生きよう”という態度は、ときに孤独ともイコールであり、それだけではままならない部分が多い。だけど当時〈YOUR NAME〉に行ってみて、個人として対等に存在しようとすることで、私たちはお互いを慮れるのだと実感した。苫小牧の街には吸い殻を落とさないし、コンビニで買ってきた酒を持ち込まない。それは当たり前のことかもしれないけど、自分としていまこの場所にいるんだという意識が統制のとれた穏やかな空間を作り出していたんだと思う。

手を取り合わなくとも、誰かと隣り合うことはできる。それが間口の開かれたイベントでできたなら、文化の伝達にもなりうるかもしれない。新鋭的な、ローカルな文化は人目につかない場所で起こり続けている。少人数のパーティーでお互いの顔を見知った状態で行われる一夜は、楽しいし最高だ。それでも、時には集って普段自分がみている景色を多くの人と共有する場もまた大事なんじゃないだろうか。
〈FAHDAY〉は市民ホールを広く使い、無料ステージ3つと有料ステージ1つで行われる。有料ステージにはカネコアヤノ、踊ってばかりの国、EGO-WRAPPIN'といった、メジャーなフィールドで活動しながらも独自の音楽性を保有するバンドが出演。アンビエント・エリアにはアイヌ民謡を下地に活動するマレウレウなど北海道を拠点に活動するアーティストがラインナップされ、フードエリアに隣接したDJブースでは〈CLUB ROOTS〉オーナーであるDJ SADAやDJ FANTAといった北海道ローカルでプレイするDJの出演が決定している。もうひとつの無料エリアには、また別角度でのローカルなミュージシャンがラインナップされるとのこと。NOT WONKの活動を通して出会ったバンドたちと、ローカルに根付いたDJ、アーティストが一堂に会する。きっと本人も想像していないような景色がひろがっていくことだろう。そして、そこでみた景色をその場にいる誰かと話し合い、分かち合いたい。商業的なフェスティバルや大規模のパーティーではない形でそんな交流を持つことが、苫小牧に住む人々だけでなく、生活の拠点を別にもつ人々にとっても必要だと思う。「表現の交換市」と称された本イベント。その文字通りに、さまざまな文化と人が行き交い、交流しあい、お互いを知り合う、そんな交差点のような場所にきっとなるんじゃないだろうか。〈FAH_ver.7〉を経たいま、わたしはそんな期待を抱いている。
文:TUDA
ライヴ情報
『FAHDAY 2024』
日程:2024年10月12日(土)
会場:北海道 / 苫小牧市民会館 全域(Area_1 / Area_2 / Area_3 / Area_4)
時間:
Area_1 – OPEN 12:00 / START 13:00
Area_2, 3, 4 – OPEN / START 11:00
主催/企画:
FAHDAY MEETING(加藤修平 / IZAKAYA草-SOU- / おうちコーヒー / 株式会社 Bigfish / CLUB ROOTS / 立呑キング / 苫小牧ELLCUBE / Bar Old / Bar Base)
制作:FAHDAY MEETING / 株式会社 WESS / その他多数
協賛:チケットぴあ
後援:苫小牧市 / FM NORTH WAVE
FAHDAY オフィシャルサイト