
Scott Walkerの約6年振りとなる最新作
Scott Walker / Bish Bosch
【TRACK LIST】
1. See You Don't Bump His Head' / 2. Corps De Blah / 3. Phrasing / 4. SDSS14+13B (Zercon, A Flagpole Sitter) / 5. Epizootics! / 6. Dimple / 7. Tar / 8. Pilgrim / 9. The Day the "Conducator" Died (An Xmas Song)
販売形式 : wav / mp3
販売価格 : 単曲 200円 / アルバム 1,500円
漆黒の原風景へと踏み込む最果ての音楽
"What is this!? (何なんだ、これは!? )"
今月始め、渋谷アップリンクで上映会が催されたドキュメンタリー映画『スコット・ウォーカー 30世紀の男』の中では、感嘆に満ちた調子でこの言葉が繰り返された。こぞって賞賛のコメントを寄せていた主たちは、この映画のエグゼクティヴ・プロデューサーでもあるデヴィッド・ボウイを筆頭に、ブライアン・イーノ、ジョニー・マー、デーモン・アルバーン、スティング、ジャーヴィス・コッカー、レディオヘッドといった英国音楽界の錚々たる知性たちであった。
圧倒的な孤高を放つ音楽家、スコット・ウォーカー。かつてはアイドル時代のビートルズと並ぶほどの人気を誇ったウォーカー・ブラザーズの最終作『ナイト・フライツ』('78)あたりから、その音楽性の変貌を垣間見せ始め、ブライアン・イーノをして「聴くのが屈辱的。これを越えることができない」とまで言わしめた。そして『ティルト』('95)から始まり、『ザ・ドリフト』('06)へと続く三部作の完結編となるのが、4ADからリリースされる本作『ビッシュ・ボス』である。

それは、漆黒の原風景へと踏み込む最果ての音楽。未開の領域を暴き出し、音楽の定義に揺さぶりをかける。音楽と非音楽の狭間を彷徨いながら、触れてはいけない人間の深層に潜り込み、手を伸ばしかける悪夢のごとく。何か知ってはいけないことを悟ってしまったかのように、〈Pain is not alone.〉と執拗に繰り返す「Phrasing」でのうち震える歌声は、底知れない恐怖を孕んでいる。アルバムのトレイラー映像(制作は、昨年亡くなったギル・スコット=ヘロンのPVを手がけたこともあるIain Forsyth & Jane Pollard)で映し出されるスタジオでの録音風景は、さながらテレビ局の音響効果室のようで、かつて大野松雄が、今や「未来的な音」として名付けられてしまった鉄腕アトムの音を生み出したように、ここでは“まだ名付けられていない音”が生み出されているのである。“インダストリアル・ゴシック・ロック”などといった無謀なラベリングは、この音楽にははるか遠く及ばない。
シャンソン歌手・詩人であるジャック・ブレルのカヴァーからソロ・キャリアをスタートしたスコット・ウォーカーの崇高な暗黒を湛えた歌は、同じくシャンソンの影響が感じられるアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズのアントニー・へガティと共振するところがある(話は少々それるが、アントニーは今年のメルトダウンでキュレーターを務め、あのコクトー・ツインズ(4ADの代表的なバンドでもある)のエリザベス・フレイザーを招集したことでも話題を集めたが、スコット・ウォーカーも2000年にキュレーターを務めており、レディオヘッド、エリオット・スミス、エヴァン・パーカー、ジム・オルークらを招集している)。あるいは、ポエトリー・リーディングにも接近するそのスタイルは、ドアーズのジム・モリソンが「Horse Latitudes」("Strange Days"収録)で展開した世界観にも重なる。
“夢の方がよっぽど論理的だ”とまで評された、混沌としたサウンドではある。しかし、映画(『ザ・ドリフト』制作時の映像)の中では、打楽器奏者に肉の塊を殴らせる音を録音する様子が映されるが、殴る間隔をもっと短くするようにコントロール・ルームから指示を出すスコットは大真面目であるし、また、録音に際してはしっかりと譜面も用意されている。彼は何らふざけてなどいないし、むしろその発言内容は至ってまともである。その姿は、今年ドキュメンタリー映画(年明けにアップリンクでの再上映が決定! )が公開された孤高の即興演奏家、灰野敬二を思い起こさせた。
例えば、デレク・ベイリーや大野一雄のように、根源的に理解困難で不可解な表現に対して、「それでも理解したい」と好奇心を示せるか。剥き出しの混沌を愛せるか。わからないことを原動力として、さらなる渇望を受け入れる覚悟があるか。この音楽を完全に消化できるというならば、あなたは音楽を卒業してもいいかもしれない。『ビッシュ・ボス』は、未知という名のエクスタシーなのである。(text by 青野 慧志郎)
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PROFILE
1943年オハイオ州生まれ。本名スコット・ノエル・エンゲル。59年にティーンエイジャーのアイドルとしてデビュー。その後ジャック・ニッチェのプロデュースで、ジョン・マウスと元スタンデルズのドラマー、ゲイリー・リーズと共にウォーカー・ブラザーズを結成。65年、デビュー後すぐにビートルズと人気を二分する存在となるも、アイドル的な扱いに嫌気がさしソロに転向。デヴィッド・ボウイ、U2、ザ・スミス、レディオヘッド、アレックス・ターナー(アークティック・モンキーズ)、ブライアン・イーノ、ジャーヴィス・コッカー(パルプ)、デーモン・アルバーン(ブラー)まで影響を与えたUK音楽界で最も重要なシンガー・ソングライター。現在までに通算14枚のソロ作を発表している。06年に発表した『ザ・ドリフト』は11年振りの復活作というだけでなく、その前衛的な作風が国内外で高く評価されロング・ヒットとなった。同年には製作総指揮デヴィッド・ボウイ / 監督スティーヴン・キジャクで、彼の伝記映画『スコット・ウォーカー 30世紀の男』が制作・公開され、スコット本人の他、デヴィッド・ボウイ、レディオヘッド、ブライアン・イーノ、デーモン・アルバーン等多数の有名アーティストが出演し話題となった。08年、アークティック・モンキーズのフロントマン、アレックス・ターナーは自身のサイド・プロジェクト、ザ・ラスト・シャドウ・パペッツのアルバム制作で最も影響を受けたアーティストとしてスコットの名を挙げている。12年、約6年振りとなる最新作『ビッシュ・ボス』をリリースする。