2022/08/16 18:00

僕らは意味のあることをやっているという自信に繋がる

──桐木さんはどんなことを意識されました?

桐木岳貢(Ba) (以下、桐木):これまで景色とか絵を思い浮かべて演奏したことがなかったんですけど、今作では音から思い浮かぶ景色をすごく意識しました。いままでは「ここはこうだから、じゃあこっちはこうだよね」ってパズルを組み立てるようにフレーズを考えていたんですよ。音を音として捉えていた、というか。でも今回は景色を優先して、イメージ先行でフレーズを作っていったんです。例えば夏の風が吹く感じだったら、こんな音かなとか。どういう景色をお客さんに見せたいかということをすごく意識した結果、いい感じのグルーヴになったんじゃないかなと思います。

──その思い浮かんだ景色というのは?

桐木:広い高原です。高さのある草がファーって生えてて、そこの真ん中にひとりで立ってる人の髪もファーってなびいてて...そこに風がファーって吹いているっていう。

柳田:...全部“ファー”じゃん(笑)。

桐木:本当だ(笑)。新宿御苑みたいな規模の大きな場所で、青空の下、なにもない草原がファーってあって...。またファーって言っちゃった(笑)。

──(笑)。桐木さんのなかには、爽やかな風景がイメージとしてあったんですね。

桐木:はい。今回の制作を通して、音楽って自由なのかなと感じたんですよね。こうして僕がイメージした景色を伝えても、それをどう受け取るかは聴いてくれる人の自由なわけじゃないですか。そこではじめて音楽は自由だと気づいたんです。音から景色を思い浮かべることができなかったら、ただドレミファソラシドを並べた音の羅列で、そこからなにも感じるわけないよなって。音楽に込められた思いを楽器で表現していきたいという気持ちが自分のなかで強まりました。

──他のみなさんは、思い浮かんだ景色はなにかありましたか?

吉田:僕は夏の午前中の涼しさみたいなイメージですかね。

柳田:景色ではないですけど、2000年代初期にでた『ジュナイブル』というSF映画を思い浮かべていました。夏に子供たちが喋るロボットを見つけたところからはじまるんですけど、さっき話にでたガジェット系のシンセから出るコンピューターの鳴き声みたいな音と、この映画はなんとなく近い気がしていて。トオミさんと共通のイメージを制作前から持っていたのかなと思って嬉しかったですね。

──なるほど。それと今回の歌詞はこれまでにないくらいストレートですね。

柳田:僕は歌詞をかくとき、ふたつのルートがあるんです。本など色々なところからたくさんの言葉を吸収して、自分の知らないものを自分のものにしていくAルートと、余計なものを一切排除して、自分の中だけから引っ張ってくるBルートと。今回に関しては、完全にBルートで書いたので、ピュアな思いをシンプルな言葉で最後まで紡いでいきました。花ちゃんという、ひとりの女の子の気持ちに寄り添えたなと思ってます。

──歌詞を書く上で意識した、花ちゃんと柳田さんの共通項ってなにかありました?

柳田:僕はスポーツ少年というよりインドア派だったので、だからこそ花ちゃんの視点で歌詞がかけたのかなと思っていて。花ちゃんはサッカーのルールをめちゃくちゃ知っているわけではないから、主人公の青井葦人にサッカーのアドバイスを直接しないんですよね。でも「こういう食事がいいよ」とかサッカーとは別視点で葦人を支えているんです。僕もサッカーに詳しいわけではないし、今回もサッカーとは別視点から歌詞を書いたので、そこは花ちゃんと共通していたのかなと。

──自分の過去と花ちゃんの生き様が無意識にリンクしていたんですね。

柳田:アオアシ視点ではそうですね。あとは「君の声が力になる」とか「声が枯れてしまっても 追い風になるように響け 愛のメッセージ」という部分は、ファンのみんなに対するメッセージでもあるんです。神サイ4人からファンのみんなへのラブレターというか。SNSを通じて「昨日のライヴを観てもうちょっと生きてみようと思えました」みたいなメッセージが届くと、僕らが音楽でその人を救いたくて作っているつもりが、逆にそういう声に救ってもらっているなって思うし、僕らは意味のあることをやっているという自信に繋がるんです。だからずっとファンの人と僕らは相思相愛でいたいなと思ってます。

──この曲は先日完走された、全国ツアーの東京公演で披露されていましたよね。ライヴならではのアレンジとかありました?

柳田 : 2サビ前の間奏で (黒川)亮介がスネアを全部叩かないというアレンジをやったんですよ。しかも突然。音源だとスネアがアクセントになっているんですけど、ライヴではキックとシンバルでグワーってアレンジしてくれて。それがバンドの音の渦というか、竜巻というか。大雨が降った翌日の川みたいな音で個人的にすごく好きでした。

──黒川さんは、どうしてそういったアレンジを?

黒川 : レコーディングの時は、「こういう作品を作りたい」という柳田の想いがあるので、それを第一に尊重したいと思っているんです。だけどこの前、柳田が「ライヴではアレンジしたりしてもいいんだよ」と言ってくれて。それがすごく大きなことだったんですよ。この曲の2サビ前の間奏って、ギターがポイントじゃないですか。だから、ドラムはなにもしない方がギターにスポットが当たるし、曲全体のバランスをみても自分が前に出るところじゃないなって引き算した結果、そういうアレンジになりました。

柳田:すごくライヴ映えしていたんですよね。そういう思い切ったアレンジをもっと普段からやってよ(笑)。

黒川:(笑)。僕のなかでこの曲に対するイメージは桜の花びらがぐわーって舞っている景色があって。それをドラムで具現化したという感じなので、イメージ先行で生まれたアレンジでした。

この記事の筆者
梶野 有希

1998年生まれ。誕生日は徳川家康と一緒です。カルチャーメディア『DIGLE MAGAZINE』でライター・編集を担当し、2021年1月よりOTOTOYに入社しました。インディーからメジャーまで邦ロックばかり聴いています。

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