2011/12/16 00:00

大注目! LowPassが第一歩を踏み出した

LowPass / Where are you going?
【Track List】
01. Intro / 02. Sometime / 03. New Way / 04. Bounce / 05. Smell feat. QN and OMSBeats / 06. Ruff / 07. Home Cookin' feat. Light and Sleptt / 08. To The Stage feat. DEJI / 09. Say Hello In Tokyo / 10. Shoot The Moon / 11. Ain't Noboby / 12. Peff (Outro) / 13. See (me and you)

客演には、長年のキャリアで培われた硬質でタイトなラップに定評があるDEJIや、2011年ソロ活動やグループのアルバムで高評価を得たSIMI LABからQNとOMSBeats。また2010 B-BOY PARK U-20 MC BATTLEでベスト4の実績を残したLightと、その盟友Slepttをフィーチャー。

自己アイデンティティの希求

11月に「Ruff」のPVを公開し突如その姿を現したGiven(MC)、tee-rug(DJ)の2人組・LowPass。昨年に無料のEPを配布しているとはいえ、全国的には無名に近い存在なわけで、東京の耳の早いリスナー以外にとっては衝撃だったのではないだろうか。かく言う僕もその一人で、PVの面白さにセンスをビンビン感じると共に、その奇天烈なトラックとラップに面喰ってしまった。面妖なコーラスが鳴り響く中で「自分とは何か」をGivenのラップが模索し続けるこの怪曲は、初めてLowPassに触れる地方のリスナーの注意を引くには十分だったろう。

で、その衝撃が残っているうちに間髪入れず届けられたのが本作だ。「Ruff」でロックしたリスナーを決して失望させない、素晴らしいアルバムが出来あがった。一通り聴いてから思えば、本作の一貫したメッセージを知る手がかりも、やはりリード曲である「Ruff」にあるように思える。それは本作のタイトルが示唆するように、自己アイデンティティの希求、だ。

「スニーカー履き/コンクリートアマゾン歩いたり/四面楚歌/八方塞がり/取っ掛かりはMicrophone Mathematics」 「今まで見てきたもの集まり/オレは誰でもない/その代わりオレでしかない… はず… たぶん」(「Ruff」)

「ダンスホールで銃声は鳴らない/鳴ったとこで結局響かない/自分に言い聞かす/あいつとオレは違うはず/それマジほんと信じていいか? どこ情報? 」(「Say Hello In Tokyo」)

その希求する主体は必ずしも特定の誰かというわけではなく、「君」であったりGiven自身であったりするのだが、そのアンビバレンスな部分こそ、LowPassが自己存在性を問いかける理由の裏返しになっていると言えるだろう。その辺りの「自分」の持ち方の曖昧さは非常に現代的であり、どんどん内省的になっていく現行のヒップ・ホップの発展形と言える。今の東京のアンダーグランドには、10年前の三つ首竜(キングギドラ=Zeebra、K DUB SHINE、DJ OASIS)のお二方のラッパーのように、「オレはオレ」とか「オレにはこれしかねぇ」とハッキリ言い切れてしまうある意味で猪突猛進な姿勢は存在しない。

ただ、本作が素晴らしいのは、そうした足を止めて考えさせるようなメッセージを内包させながら、それでも「踊らせる」「ノレる」ヒップ・ホップであることだ。昨今の後ろ向きで狭隘なヒップ・ホップにも段々うんざりしてきた僕にとって、このハイブリッドな姿勢は大歓迎。彼らが最初にきっちり宣言するように、「これがLowPass/お前が今首揺らしてんならマジだ」(「Sometime」) ってことだ。

QNやOMSB'Eats、Light、Slepttといったアンダーグランド好きがすぐに反応する若手からDEJIのような中堅まで、援護射撃に加わった面々もそれぞれ安定感のあるラップを披露しているが、やはりソロ曲がキモだろう。一気に畳み掛ける「Sometime」、「New Way」、「Bounce」といった序盤の楽曲の盛り上がりは「Ruff」にはなかったもので、彼らの振り幅の広さを感じさせてくれる。

これらの曲と「Say Hello In Tokyo」、「Home Cookin'」なんかを聴けば、自分の中の2011年ヒップ・ホップ・ランキングが変わるリスナーも続出することは疑いない。SIMI LABや昨今のフリー・ミックス・テープに目がない方なら避けては通れない、年の瀬の騒がしさを加速させる話題作だ。(Text by 遼)

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PROFILE

LowPass

Soul、Jazz、Funk、Rockなどをルーツにしながらもまさに温故知新ともいえるサウンドをクリエイトするDJ、 ビート・メイカーのteerug。独自のフィルターを通してサンプリングされたビートは温かみの中にも、その奥底で鋭く研ぎ澄まされたグルーヴ達がうごめいている。1MCのGivenいわく「もしこのビートを聞いてあなたの頭そして腰が静止した状態なら、悪いことは言わないのですぐにお医者さんに診てもらった方がいいでしょう。とのこと。その1MCのGivenは、なんとも形容しがたい浮遊感をまといteerugのビートの上を好き勝手に放浪する。2010年、都内を中心に活動をスタートし、同年ストリートで無料配布した『The Direction E.P.』が話題を呼び、さまざまなライヴ活動でもその場の観客をロックしてきた。2011年、アンダーグラウンド・シーンでジワジワとその名を広めつつあるこの二人がついにひとつのプロダクションを完成させた。

この記事の筆者

[レヴュー] LowPass

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