2015/01/30 12:27

コストをかけずともハイレゾは体感できる? 理想の機材の選び方

(左から)高橋健太郎、和田博巳、島幸太郎

高橋 : そういった状況のなかで、ユーザー代表の和田さんとしては、どういうふうに機材や音源を選べばよいと思いますか?

和田 : 機材選びに関しては、用途やリスニング・ルームの有無などいろいろあるけれど、それ以前に予算の問題も大きいと思うんだよね。デジタル・ファイル再生の時代になって、オーディオ評論家でも、オーディオ・マニアでも、これまでの概念は通用しなくなった。PCを使ったハイレゾ・ファイル再生を念頭に置くなら、SACD / CDプレイヤーは必要ないし、優れたパワード・モニターを買えば、アンプも必要ない。極端なことを言えば、オーディオに100万円かけられる人はDACに50万円をかけられるわけですよ。一式2、300万のシステムのスケール感は出ないかもしれないけれど、極めて優れたクオリティ感は得られるはずです。

島 : リスナーでも、一般的にはオーディオに詳しくない方が多いと思うんですけど、そもそもの話として、ハイレゾになったらすべて解決するわけじゃないっていうのが前提としてあるんですよ。価格なりのグレードの差は、ハイレゾだからって解決してはくれないと思うんですよね、ハードウェア的な意味でも。例えば5万円、10万、50万の3つの機材で、ハイレゾの音源だったらどれもこれも素晴らしいかって言ったら、「異議あり」ですよね(笑)。

島幸太郎

和田 : たいしたことのないハイレゾ音源はごまんとあるけどね。ただ、これからのことを考えたら、オーディオ・マニアとしては、スピーカー、アンプは買い替えないにしろ、2、3年ごとにどんどん良くなってくるデジタル機器だけは買い替える人はいるかもしれない。2015年からは、本当の意味で11.2MHzまで含めたハイレゾ元年と呼べる気がだんだんしてきてるわけ。今年こそ認知されるじゃないかと…。

高橋 : 和田さんも11.2MHzであれだけのショックを受けたのなら、買い替えないといけないですよね。

和田 : そうなの。今HA-1は自分の友達に奨めてるんですよ(笑)。これさえあれば幸せになれるって(笑)。マニアからすればこの値段は安いよね。で、僕はexaSoundのe22を買わなくっちゃ、と。

OPPO HA-1

島 : 日本って本当に恵まれてるなあと思った話がありまして、3年前のCES(※5)の時は、いろんなメーカーのブースでDSDの話をすると、「何言ってんだ君は?」っていうリアクションで(笑)。少なくとも経営陣やマーケティングの人には全く通じなくて、二言目には「日本人はスペックばっかり重視してる。“音”を聴いてよ!」みたいなことを言われるわけですよ。それから1年経って去年のCESに行ったら、猫も杓子もDSD騒ぎで、「DSD万歳!」みたいな(笑)。それにとても驚いたし、いわゆるハイレゾの動きとして、日本は1年半進んでたかなと思います。

※5.CES : Consumer Electronics Showの略。ラスベガスで開催される世界最大規模の家電見本市。

高橋 : 特にDSDに関してそうですね。

和田 : DSDのスペシャリストであるアンドレアス・コッチ(※6)は、「日本のマーケットは新しくていいことすれば、きちんと評価してくれるからとてもやりがいがある」と言ってたよ。「日本のユーザーは本当に熱心だし、きちんと聴いてくれる」って。

※6.アンドレアス・コッチ : アメリカのハイエンド・オーディオ・メーカー〈Playback Designs(プレイバック・デザインズ)〉の主宰者兼デザイナー。

島 : 2013年まで、特に海外メーカーはハイレゾ的なものには懐疑的で、配信でもCDからのリッピングものが多かったんですけど、ハイレゾ音源に去年から急激にシフトしてきて、去年からはオーディオ・ファイル、逆にレコードとかテープがブームになってて、そういう変化はダイナミックになったなあと思いますね。でも2014年で各メーカー一旦頭打ちというか、5.6MHzのDSDや32bitのPCMが再生可能、っていうのが基本的なスペックとして足並み揃って来ていて、いよいよ同じようなところに立ってきたなあと。

高橋 : そうですよね。DACチップの限界もあるし、更に世代変わらないと次には行かないかもしれないね。

島 : PCオーディオの面白いところとして、デバイスはみんなだいたい同じという部分があるんですよね。USBインターフェースは3社ぐらいから選んで使っていますし。今度は、逆にアナログの設計技術が求められているなあと思っていて、そこにオーディオ的な品位の違いや価格の違いがリアルに出てきてるかなと思いますね。

高橋 : OPPOは本当にそれを体現してるよね。この価格でよく頑張ったなあと思います。

和田 : ヘッドフォン・アンプとしてもいいしね。

高橋 : どういうオーディオ環境で聴くのかっていうのも多様化してて、ヘッドフォン派の人達は、僕や和田さんも着いていけないくらい尖鋭化してて、でも、OTOTOYのユーザーにもそれは含まれるので、最近は意識せざるを得なかったりする。僕自身はあまりヘッドフォンは好きじゃなくて、スタジオ作業でもあまり使ってこなかった。最後の確認のために1、2回使うぐらい。でも若いクリエイターはほとんどヘッドフォンで作業して、最終チェックもヘッドフォンって人が増えてるし、エンド・ユーザーもDACとヘッドフォンにすごくお金をかけるようになった。で、ヘッドフォンって16bit、24bitの差どころじゃないほどハイレゾリューションなわけじゃないですか。それで聴かれてると思うと、制作サイドにとってはすごくプレッシャーで、最後のフェーダーを早く切り過ぎたとか、ディレイが残っちゃってたとかも全部わかるし。いままでのエンジニアはスタジオ作業でヘッドフォン使わないで、ラージ・モニターの大きい音で最終確認するが普通だったわけですけど、最近は僕もヘッドフォンを4、5種類も使って、チェックするようになってきたんですよね。その辺りはすごく変わってきたと思うし、オーディオ・メーカーもそこにはすごく対応していますよね。

島 : ハイレゾ音源ってどのくらい聴き手の評価を変えるパワーがあると思いますか? 例えば安いDACでハイレゾ聴くのと、高いCDプレイヤーでCDを聴くっていうのとか。

高橋 : どういうシステムで聴くかによると思います。オーディオ・マニアのメイン・システムっていうのは、それなりに何十年もかけて、自分の好みを把握しつつ選んでるものであって、ある種、世界が固まってるわけですよ。そこにすごい高解像度のDACを入れたからって、なかなか自分の好みにハマらなかったりもする。僕の場合、それよりもデスクトップのPCオーディオのシステムとして、3万ぐらいのイクリプスTD307MK2とフォステクスの1万のサブ・ウーファーを使っていて、ここでハイレゾ聞くのが楽しいんですよね。100万円台のCDプレイヤーやスピーカー使ってるリビングのシステムではむしろCDを聞くみたいな。デスクトップのはスピーカーが5万円しないんですよね。でも、それにOPPOのHA-1があったらかなりよいですよ。

和田 : イクリプスで聴くと、ハイレゾのよさは誰にでも分かると思う。

高橋 : なおかつその音像って、うちのATCのでかいスピーカーで聴くのとは全然違うんですよね。空間に関しては、ある意味、イクリプスのほうが聴こえる。

和田 : 空間の広大な感じ、宇宙観ですよね。スピーカーの存在が消えちゃうもの。録音したそのままのイメージがきれいに現れる。CDもものすごく手をかければとてもいい音なんだけど、ハイレゾはもう別の世界なんですね。ハイレゾのいい音っていうのは掴みどころの無いくらい良い音なんです。古くていい音っていうのはなんか掴めそうなんですが。

和田博巳

島、高橋 : よくわかります。

高橋 : もう違う世界なんですよね。でもCDとかレコードの世界は、買い続けてきたコレクションもあるから、それはそれで逃れられられないわけですよ。

和田 : ある人が、「近い将来、アナログとデジタル・ファイルの時代になってCDは終わる」って言ってて、俺もそうなると思ってたんですよ。欧米はあと5年ほどでCDの生産が終わるけど、日本人はパッケージ・メディアが好きだから10年くらいはCDの生産を続けるだろうって。これは国内外の人が言ってるようですが、2人はどうですか?

高橋 : そういう雰囲気ですよね。だって海外のアーティストは日本のためだけにCD作ってるようなもんですよね(笑)。

島 : 海外でのオーディオ的な観点で言うと、海外メーカーの新製品でディスク・プレイヤーってほとんどないんですよ。致命的な理由は、ドライブが入手できないからです。だからファイルかネットワーク・プレイヤーかのどっちかにならざるを得ないというビジネス的な事情があると思うんですよね。

和田 : PCにもドライブが無くなってきてますからね。

島 : ディスク媒体はもう映像ぐらいですよね。ハイレゾ・ファイルに関しては、どうやって再生するのが一番良いと思いますか?

和田 : ネットワーク(※7)は、その環境の中にNASやHubを置いて、パソコンやタブレット端末からそれを見て操作するなど、はなはだ面倒なんだけど、いいとこもあるよね。でも手っ取り早く、なおかつお年をめした方でも簡単に聴けるとなるとUSB DACなのかなと思います。

※7.ネットワーク・プレイヤー : 主にLANを利用し、HDDやNASなどのストレージに蓄積した音楽ファイルを、ネットワーク上の対応プレーヤーやパソコンなどで再生するリスニング・スタイル。

島 : いろんなイヴェントで「今後なにを買いますか?」ってアンケートをしてるんですけど、そこでも半分以上はUSB DACなんですよね。

高橋 : 僕はハイレゾに関しては新譜をデスクトップで聴くっていうのが一番多いですね。ハイレゾ音源って透明度が高くて奥まで見通せるものが多いじゃないですか。それを手の届くところに小さいスピーカーを置いて聴く。大きなスピーカーは聞くのに距離が必要で、スピーカーから遠い時点で、もう濁ってきちゃう不部分がある。だから、新譜のハイレゾでそういうところが聴こえるタイプの音源っていうのは、もうでかいシステムで聴く必要もないかなあみたいな。

和田 : でかいオーディオでは聴こえない音や聴こえ方があるからね!

高橋 : そういう意味で、エレクトロ系の新譜のハイレゾ音源が特に面白いですね。5万円ぐらいのUSB DACとスピーカーで、今までにない体験ができる。この先、アーティストがヘッドフォンとかニアフィールドに合わせた音源の作り方をしてくると、もっと可能性が開けていくかもしれない。

アップ・コンバートの実態、そしてハイレゾの今後

高橋 : 機材の話をしてきましたが、アップ・コンバート(※8)についてはどうお考えですか?

※8.アップ・コンバート : デジタル化によって失われた音を、算術的な補完技術を用いて、より高い数値に変換すること。

島 : 音源としてのハイレゾっていうのは結局形式上の問題であって、実質を伴うかは別問題なんですよ。だから16kHzでサンプリングして8bitで録音してもそれを16bit/44.1kHzにすればCD音質になってしまうわけですし。その実質的な話は、制作側とお客様側の間でバランスを取るのが難しいですよね。

高橋 : OTOTOYでは、くるりの新譜の際に、24bit/44.1kHzと24bit/96kHzのK2HDを販売したんです。

和田 : K2HDの音質はどうですか。

高橋 : スタジオで波形を解析してみたんですが、波形を見ると、単純にアップ・コンバートってわけじゃなくて、なんらかのアルゴリズムでやっているのは分かりますね。だからちゃんと技術があるものだっていうのはわかったのですが、どちらがいいかっていうのは、機材によると思った。

高橋健太郎

島 : K2HDって高調波を付ける技術なんですけど、そのパターンっていうのは3パターンぐらいあるらしくて、とにかく聴いて、音源と合うものを選ぶみたいですね。

和田 : やっぱり使い方次第だと思う。K2プロセッシングでもいいものはいいんだよね。

島 : moraのようにフォーマットを極力24bit/96kHzに揃えていこうとしている配信サイトもありますが、それはどう思われますか?

和田 : あまり意味ないように思う。24bit/44.1kHzでもいい作品はあるしね。

島 : 24bit/96kHzに無理矢理揃えるやり方は2つあります。音源は24bit/48kHzなんだけど、48kHzから96kHz部分の全く無音のデータをくっつけて24bit/96kHzとして売るというやり方と、もう1つは、信号処理でなにかしらの高音を付けて別物にするK2HDプロセッシングというやり方ですね。可聴帯域が変わってくるわけですが、それに関してどうですか?

高橋 : それは、アップ・コンバートの実態をちゃんと説明してくれればいいと思うんですよね。そこが一番ユーザーが求めてるところだと思うんですけど。元が24bit/48kHzだったら、24kHz以上の帯域は音がない。しかし、24kHz以上の帯域に音楽情報がなくても、フォーマットを24bit/96kHzにあげることでフィルターのかけ方が変えられるから、20kHz以下の可聴帯域の再生にもメリットがあるという考え方もある。

島 : それを誰が説明するかって話ですよね。

高橋 : 正直言って、音源作っている現場でも対応できてるところとできてないところがあると思うんですよ。なにしろ、聴こえない領域を扱うわけだから。40,000Hzがスタジオのモニターからどれだけ出てるかなんて計測したことないし、わかんないんですよね。DAW上では見えているけど、トランスが入ったアナログ機材でばっさり切られているかもしれないし。そういう聴こえない領域をどういう意識で、どういう環境で扱うのか、というのは、これから整備されていくところが多いと思う。

島 : ハイレゾ・マークも、いままではハードの話だけだったのが、だんだんソフトの方でも使われはじめるようで、さらにごちゃごちゃしてきました。品質はどう保つのかとか、40,000Hz出てないものはハイレゾなのかと出てくると、普通の人はもうわかんなくなってしまうなあという心配はありますね。

和田 : わかる人にとっても、わかんなくなってきてるよね。

島 : そうなんですよね。わかる人には、逆に突っ込みどころが多くなって墓穴を掘る状態になって結果信用をなくしても意味が無いと思うので。それをきちっとやっていかなければならないと思いますね。

高橋 : だから数字だけじゃなくて、自然に鳴ってて、自然にいいと思える世界にできるといいなと思いますね。

島 : そうですね、無意識的にいいと思うと思えるものが重要ですね。

今鼎談で紹介されたDACはこちら


OPPO HA-1
OPPO HA-1

高音質ユニバーサル・プレーヤーで世界的に高い評価を確立している米国〈OPPO Digital社〉のUSB DAC内蔵ヘッドホン・アンプ。ヘッドホン・アンプ部は、フルバランス設計かつA級動作で、さらに左右対称の選別品を使ったマッチドペア・ディスクリート設計を採用するなど、オーディオ・ファンからいち早く高い評価を獲得。内蔵USB DACは32bit/384kHzまでのPCM信号と11.2MHzまでのDSD信号をサポート。定評あるESS Technology社製ハイエンドDACチップ「ES9018」を搭載し、究極の低ノイズ・低歪な特性を実現している。アナログ入力部やプリアンプ機能も搭載し、まさにヘッドホン・アンプからデスクトップ・オーディオまで、一台で全てをハイ・レベルにこなす製品だ。

>>OPPO HA-1の詳細

>>高橋健太郎のOTO-TOY-LAB ――ハイレゾ/PCオーディオ研究室――【第8回】OPPO Digital「HA-1」


exaSound e22
exaSound e22

ハイエンド・オーディオ向けDACチップとして提供のあるESS Technology社製「ES9018」を採用した各社DAC製品の中でもずば抜けて優れた性能を持つことで知られるカナダexaSound Audio DesignのフラッグシップUSB DAC。オーディオを知り尽くした開発陣は世界で初めて民生機で11.2MHzのDSD音源の再生を可能とした製品を発表したほか、海外レーベルと共に11.2MHz DSD音源の制作のサポートをするなど、積極的に音源のハイレゾ化を推進している。まさにハイレゾ音源のトレンドの最先端を切り開く存在といっても過言ではないだろう。

>>exaSound e22の詳細

PROFILE

島幸太郎

150万以上のアクセス数を持つオーディオ・ブログ、〈Theme:Spatiality 3D〉を主催。PCオーディオ、ハイエンド・オーディオを主なテーマとして扱い、人気を博す。日本におけるPCオーディオ分野の黎明期よりオピニオン・リーダーとして活躍。PCオーディオ分野の事業コンサルティングを請け負うほか、関連書籍を執筆。代表的著作として、インプレス刊『新版 PCオーディオガイドブック』がある。その他専門媒体にPCオーディオ関連記事の原稿を多数寄稿。現在はIT-BCPサービスとコンシューマ・エレクトロニクス製品を取り扱う株式会社エミライの取締役として、音響・映像関連製品の企画 / 開発を担当。プライベートではコンシューマ用とプロ用のハイエンド・オーディオ機器を組み合わせたシステムを使用している。

>>株式会社エミライ オフィシャルHP
>>島幸太郎 オフィシャルTwitter

和田博巳

1948年、茨城県日立市出身で北海道の余市町育ち。66年上京。ジャズ喫茶勤務ののち、69年、高円寺にロック喫茶、ムーヴィンを開店。良質な洋盤をいち早く流す店として話題に。その後、岡林信康のアルバム『俺らいちぬけた』(71年)のバッキングで共演した鈴木慶一と意気投合し、72年、伝説のバンド、はちみつぱいにべーシストとして参加。74年のバンド解散後は地元に戻り札幌にて和田珈琲店を開店。和田珈琲店(やがて中南米志向にアレンジしてバナナボートと改名)は、小西康陽(ピチカート・ファイヴ)やDUB MASTER Xなど、のちに名を馳せる若き音楽好きが頻繁に足を運んでいたお店として知られている。80年代初めの再上京後はマネージメント及びサウンド・プロデュース業を展開。ヒックスヴィルやオリジナル・ラヴなど、さまざまなアーティストの作品を手掛け、のちの“渋谷ブーム”の隆盛に寄与した。その傍らでスパニッシュ・ムーン、QUOTATIONSと自身のバンド活動も展開。鈴木慶一の〈水族館レーベル〉等に音源を残している。現在はオーディオ評論家としても活躍中。

高橋健太郎

大学在学中より『YOUNG GUITAR』、『Player』などの音楽誌でライター・デビュー。その後『朝日新聞』やマガジンハウス関連の一般紙にもレギュラーを持つ。ライターの他、音楽プロデューサー、レコーディング・エンジニアとしても活動するようになり、2000年にインディーズ・レーベル「MEMORY LAB」を設立。さらに、音楽配信サイト「OTOTOY」(旧レコミュニ)の創設にも加わった。

>>高橋健太郎 オフィシャルTwitter

この記事の筆者
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