井出靖、レジェンドがずらりと参加した16年ぶりの新作を1週間先行配信、その驚きの制作過程に迫る

まさかの16年ぶりの新作である。クラブ・カルチャー黎明期から活躍し、現在はレーベル / ショップなど自身のプラットフォームである〈Grand Gallery〉を中心に精力的に活動を続ける井出靖。彼のLONESOME ECHO STRINGS名義の、16年ぶりの新作『COWBOYS』が発表された。本名義はその名の通りストリングスをひとつの核としたプロジェクトで、チルアウトでダビーなダウンテンポとストリングスたちが、美しい世界観をドラマチックに描いている。さらには、下記にて紹介するが、びっくりするほど豪華な、ルーツ・レゲエ、パンク / ノーウェイヴ、さらにはスピリッチュアル・ジャズなどのレジェンドたちまで参加しているのだ。OTOTOYでは、本作を1週間先行配信でお届けする!
YASUSHI IDE PRESENTS LONESOME ECHO STRINGS / COWBOYS
【配信フォーマット / 価格】
ALAC / FLAC / WAV : 2,400円(税込、単曲購入は各300円)
mp3 : 1,599円(税込、単曲購入は各200円)
【収録曲】
01. AIN'T NO SUNSHINE feat.U-ROY (Lonesome Echo Strings Mix 2014)
02. OUT OF THE WEAK WILL COME STRENGTH feat. INGRID SCHROEDER
03. NEXT DOOR
04. WHISPERING DRUMS
05. FACES feat. TOM VERLAINE, JAMES CHANCE (Shadows Of Fire and Black Night Mash Up Mix)
06. WISHING ON A STAR (Vinnie Bell Electric Sitar Orchestra Mix)
07. GOOD NIGHT
08. LOVE feat. PHARAOH SANDERS, LONNIE LISTON SMITH (LONESOME ECHO STRINGS 2014 MIX)
INTERVIEW : 井出靖
1998年にリリースされ国内外でも高い評価を受けたLONESOME ECHO STRINGS『Purple Noon』、そして4ヒーロやマスターズ・アット・ワーク、DJスピナなどを含む国内外のアーティストたちが参加した4枚のリミックス盤『AFRO BLUE / BLACK VELVET』。これらの作品は海外でもライセンスされ、そのストリングスとダビーでラウンジーなダウンテンポによるチルアウトの傑作として国内外で高い評価を受けたと言ってよいだろう。オリジナルのリリースから16年、ここに来て、LONESOME ECHO STRINGS名義の新作が届けられた。変わらぬその美麗な世界観を描くダウンテンポにはため息をつくばかりだ。本作の特徴はまずなんと言ってもその豪華なゲスト陣だろう。フィーチャリングだけでも、レゲエ・ディージェイの草分け、言わばラップのルーツとも言える存在、U-ロイ、NYのパンク〜ノーウェイヴからはトム・ヴァーレインとジェームス・チャンス、そしてスピリチュアル・ジャズのレジェンド、ファラオ・サンダースとロニー・リストン・スミス、そして井出作品にはいなくてはならないヴァイオリニストの金原千恵子… と、それこそ驚くばかりの面子が参加している。もうひとつ言えば、タイトルを見ていくと、これまでさまざまな作品で井出靖が関わってきた作品に対するオマージュも感じられるセルフカヴァー的な趣もある。そのあたりは、驚きの制作方法をインタヴューで語っているので、ぜひとも読んでいただきたいが、その姿勢はどこか、やはりDJカルチャーをひとつの契機として活動をしてきた彼の音楽観が示されているかのようでもある。では、早速、この16年ぶりの作品はどう生まれたのか? 本人に登場いただこう。
インタヴュー & 文 : 河村祐介
新鮮に響けば、使い回したって良いと思うんですよ
——1998年以来、16年ぶりの作品となりましたがタイミング的にどうなんでしょうか?
井出靖(以下、井出) : 「あ、本当にそうだ」という感じですよね。いま、言われてみるまで、なんでこのタイミングになったのかわからなかった。きっかけとしては、『LONESOME ECHO』(1995年の井出靖名義のアルバム)の続編として、2012年にソロ『LATE NIGHT BLUES』をひとつひさびさに作れたので、『Purple Noon』の続編も、もう1枚作りたいなと思っててて。日々の活動、お店とかレーベルとかをやって、あまり自分の活動というのはあまりやらないんですよ。
――どちらかと言えばプロデュースとかの方が多いですよね。
井出 : なので、あまり“作る”という感覚がなかったんですけど、『LATE NIGHT BLUES』ができたので「ストリングスもなにかカタをつけとかないと」とか思って。当時、録って使ってないトラックも眠ってたりしたんで。どっかで、区切りをつけないとまとまらないじゃないですか? 「それで出すならいまなのかな」って去年思って。
――〈Grand Gallery〉および関連レーベルの作品の多くは、プロデューサーとしてやっぱり深く関わっているじゃないですか。ご自分の作品とそうした他の方の作品とで明確に違うところってどこですか?
井出 : コンピはコンピで、コンピに見えてうちのコンピのものは全部新録のものもあって。いま原盤も800曲くらいあるんですよ。いま計算してて、レーベルからのアルバム・リリースは181枚とかまでいったので。で、そのなかにはコンピとかで新録を作るもの以外にアーティストの方のソロ・アルバムもあって。そういう場合は、自分の考えを言って作ってもらうという感覚があって。でも自分のソロはどうなるのかわからない、それが楽しみだから作るというか、定型文みたいなのがないので。どうなるのかわからないっていう。あとはちょうど22年、(〈Grand Gallery〉のサウンド・エンジニアとして)働いてくれていた太田桜子が3月に辞めたので、彼女と作った音もあるから、そういうものは全部終えてしまおうかなという。
――ひとくぎりのタイミングだったと。
井出 : それに加えて新録も今回のアルバムには入ってるんですけど。いろいろ重なって。あとで出てくると思うけど、『Purple Noon』のときのような豪華なストリングスなんていまの時代、予算からしてレコーディングできるわけがないので。だから、続編としてストリングスの部分をどうやって作ったかっていう新しい方法も今回の作品の肝だったりするんですよ。
――いまの話を聞いていると、とにかく区切りとしても「作りたい」という明確な意志があったようですね。
井出 : そうですね。前使ったもの、未発表のものとかをうまく混ぜて、ストリングスのものでの表現はひとつ終えておこうと思ってて。
――以前の作品のニュー・ヴァージョン的な作品も含まれているのはそのあたりがあるようですね。新曲ももちろんですが、やはりゲスト陣含めた過去曲の新たなヴァージョンが気になるところで。ビル・ウィザースのカヴァー「Ain't No Sunshine」ですが、これ『Lonesome Echo』でもカヴァーされてましたよね。
井出 : そうそう。今回はヴォーカルにU-ロイで。以前の作品は〈EMI〉から出てて、なのでちゃんと〈EMI〉の許諾を得てライセンスしてもらってトラックの一部を使わせて。そこに、弦楽として金原さんに6人編成のかたちでひとりで演奏してもらって、“ちょっとピッチがあがってる金原さん”とか“ちょっとつっこむ金原さん”とか変えてもらって演奏し直したんですよ。
――以前の素材を許諾をとりつかいながら、同時に足したり、録り直した部分があると。
井出 : そうそう、ギターに秋広真一郎を加えたりして。ミックスも録り直して。で、今回の作品はさっきの話にも出ましたけど、ファラオ・サンダースにしても、U-ロイの声にしても、それを持ってても、不当にやったらいけないと思って、ちゃんとレコード会社の法務と交渉して許諾をとって使わせてもらったという感じで。他の素材にしても全部、そうして作ってるんですよ。
――なるほど、この「Ain't No Sunshine」を再録した理由は?
井出 : これは『Lonesome Echo』のときに、すでにストリングス・ヴァージョンがあったんですけど、シングルとアナログにしか入ってなかったんですよ。そういうところで、1曲目にもってくることで豪華さも出るし。
――「このアルバムは昔の曲も再録してます」っていう宣言みたいな部分もあるのかなと。
井出 : そうそう。でも知らない人もたくさんいると思うから、それはそれで新鮮に響けば良いのかなと。
――「Out Of The Weak Will Come Strength」に関しては、これは金原さんの作品に入ってた楽曲ですよね。
井出 : そう、これはもともとは、自分の『Purple Noon』の続編の一部として当時作ってて。当時は「Tatiana No Namida」という曲で、それは歌も録り終わって、ミックスも終わっていたんですけど、『Purple Noon』から次の作品を出さなかったから、金原さんの作品に入れてみて。そのときは、金原さんももちろんヴァイオリンを入れて。今回は逆に金原さんのヴァイオリンを消して、作り直したという感じで。当初自分が考えたのがコッチなんですよ。金原さんのソロの方で先にでてしまってて。
――あと目立つ曲と言えば「Faces」。トム・ヴァーレインとジェームス・チャンスですが。
井出 : これは「Late Night Blues」という曲があって、それは、もともとは『Purple Noon』に入ってた「Spiritual Serenade」という曲のトラックなんですよ。「Spiritual Serenade」はこだま(和文)さんが吹いてて。そのトラックでトム・ヴァーレインとジェームス・チャンスに当時演奏してもらってるんですよ。それを「LATE NIGHT BLUES」では、その素材を分解して切り貼りしたんですよ。だから、このふたつの曲は合体させると、そもそも同じキーで演奏しているから合うわけなんですよ。だから合体させて。

――なるほど、それはすごいですね。
井出 : で、なおかつ、ストリングスは『Purple Noon』で録ったものを、当時の権利がある〈ワーナー〉からストリングスだけの許諾を正式にとって借りてきて。それで合わせたという曲なんですよ。
――それはすごいですね。これまでの素材を持っている井出さん以外じゃ作れませんよ! これはやっぱりいろいろな素材があるというところで「これとこれを合わせたら?」という妄想というか構想があってというところですか?
井出 : 正規のマッシュ・アップだね。
――なるほど!
井出 : しかも誰にも怒られない。別タイトルにしても、作曲は僕だし、それぞれの素材も許諾を得ているしで。ヒップホップもそうだけど、レゲエも同じヴァージョンで歌ってるじゃん、だから作り方としてはそういう部分だよね。
――そのあたりやっぱりDJカルチャーが基礎という井出さんらしい気がします。
井出 : そうですね。新鮮に響けば、使い回したって良いと思うんですよ。「Good Night」とかもドラムは屋敷豪太の別の曲から抜いてるんですけど、これは僕がうちのレーベルで原盤を持っているやつで。さらにこちらは楽ですね。ちゃんと事務所に話をして、サンプルの権利を正式にとって。作って1回だけ出してっていうのはもったいないかなっていう感覚もあるよね。やっぱり、ループ感というか、コラージュ感が好きなのでそのへんもあって。
――あの曲はなんだかハリー・ムーディーとキング・タビーのダブみたいですよね。ストリングスとダブというところで。
井出 : これも『Silver Ocean』に入ってた「Sweet Dreams」なんですよ。そのトラックのテンポをいじって、外池満広くんにキーボードとシンセ・ベースなんかを入れてもらって、で豪太のリズムを足して、ああいう〈ムーディスク〉(ハリー・ムーディーのレーベル)の曲みたいな。前のヴァージョンがハウスだったんですけど。
過去のものも新鮮に思えるから使わせてもらっているだけで
――この制作話を聴くと、前の作品も聴き返したくなりますね。
井出 : ぜひぜひ。
――話戻りますが、トムとジェームスとはどんなふうに。
井出 : 本人たち同士は会ってなくて、トラックに演奏してもらって。それを僕が編集して一緒にやってるような感じにみえるんですよ。
ーーそうなんだ。そういう意味ではすでにDJっぽい作り方っていうか。
井出 : そうですね。わりとそういう風にしてるんで。
――なるほど。そしてレジェンド系ではさらにファラオ・サンダース、ロニー・スミス。これは『Silver Ocean』でDJスピナの参加曲ですよね?
井出 : 単純に、これもさっきの曲なんかと同じ発想で、『Purple Noon』のビッグ・ユースが歌っている曲で、同じコード進行なんですよ。で、そこにロニー・スミスとファラオサンダースに、ふたりに一緒にスタジオに入ってもらって演奏してもらったもので。で、そのときにストリングスを抜いたのが『Silver Ocean』のヴァージョンなんですよ。本人たちはストリングスがあるトラックの上でほんとは演奏してるの。こういうのを1回で終わらすのはもったいないなあと思って。でちゃんとまた交渉しまして。実はストリングスはワーナーから借りて、その他のオケはV2で、いまユニバーサルから借りるかたちになって、それで合わせて作ってるから。ライセンスはふたつあるっていうね。
――びっくりしました。この取り合わせが。マジックというか、ほんとに。
井出 : やっぱりそういうのが今回のテーマで。ストリングスだけ貸してくれんのかなと思ったけど、やっぱ貸してくれたから良かった〜と思って。

――なるほど。制作過程がすごくおもしろいですね。はじめて聞くような話ばかりで。あとは、「Wishing On A Star」。
井出 : そう。これはヴィニー・ベルって、エレクトリック・シタールを作った人なんですよ。その人はアカデミーとか映画音楽で賞を何回ももらっているような大巨匠の人で。これも『Purple Noon』のときに、録音し終えてるんですよ。当時『Purple Noon』入れるときに、やっぱり他の生のストリングスとは感覚が違うから、お蔵入りにしちゃったんですね。でも今回入れてみたらはまって。
――いま話に出ていない他の曲もこれは聴きたくなりますね。例えば「Next Door」は?
井出 : これは仮タイトルが「スティーヴ・ライヒ」というぐらい、ライヒを意識してた曲なんだけど、これも『Purple Noon』のときはあまりに重いので入れるのやめたんですよ。はじめ1曲目とかでも良いかなと思ったんだけど、それは人選ぶかなって(笑)。だから本当、これは新作っていうか続編なんです。
――冒頭で言われたように区切りなんですね、そういう意味では。あともう1曲「Whispering Drums」は?
井出 : ナイヤビンギ・ドラムにハープが入ってて。この辺からアルバムは、だんだん混沌としてくるように。わかりやすいところからだんだん混沌としていくっていうか。これも前のアルバムのときに、重いからアルバムに入れないほうが良いって言われた曲なんですが、今回は良いかなと。
――これが架空のサウンドトラックということで、資料に書いてありましたけれども。
井出 : あ、Laidbackのことですね。今回配信にはないんですが『Laidback』っていう作品が『Cowboys』と同時に。桐箱も特注で作って、自分のレーベルからセレクトしてる2枚組のミックスで井上薫くんとか富永陽介くんとかが手掛けた初収録のリミックスとかも入って。全部自分たちで箱詰めしてるんですけど。この形式なんで配信できないんですよ。
――これはもう物としてすばらしいので、ちょっと配信でなにかするっていうのは違いますよね。
井出 : で、これが同時に出るんですけど、『Purple Noon』は自分の中で現代のムード音楽を作ったつもりなんですよ。で、『Purple Noon』のジャケットがアンディ・ウォーホールだったんですね。で、アンディ・ウォーホールの映画のタイトルに『Cowboys』というのがあるんですけど。それとちょうど、去年、縁があってこのジャケットの絵と出会うんですよ。これを書いているのがジェフ・マクフェトリッジ。有名なところではビースティー・ボーイズが出してた雑誌の『GRANDROYAL』のアート・ディレクターをやって、あとはジャック・ジョンソンのジャケットとか。今、この原画はここにあるんですが、この絵と出会ってインスパイアされた部分もあって。

――微妙なタイトル感もありつつ、作っていた感じですか?
井出 : 絵がないと曲順ができないんで。
――〈Grand Gallery〉のものって基本的にはそうですよね。ヴィジュアルがしっかりあって、そこにコンセプトもあってというところで。
井出 : そうですね。自分のは特に浮かばないんで。曲順とかが。これがもっとハードコアな写真だったら、違う曲順になってたかもしれないと思うので。
――ちなみに来年〈Grand Gallery〉は10年を迎えるようですが、やってみたいことってあるんでしょうか?
井出 : まずは200タイトル。これを出すというのが最初かな。それが出せれば、来年の10周年が見えてくるかなと思ってて。先週数えたら180枚いって、すでに作ってるものとか、決まっているものも考えるといくかなと。あとは自分のやつを1枚作りたくて。1曲は録音してて。この前、UNITの〈Home Party〉で自分名義のライヴをはじめてやって。金原さんの後ろでライヴには出たこともあるけど。僕がトラックを流して、キーボードが、ベースも兼ねて外池くんで、ギターに、TICAの石井(マサユキ)くんと秋廣シンイチロウくん、サックスに元デタミの巽(朗)くんとソイルの元晴くんで、フリー・ジャズのダブみたいな感覚のバンドで。その編成にヴォーカリストを入れて、1曲だけ録音をしてあるので。この編成で1回録音してみたいなとは思ってて。
――『LATE NITE BLUES』を作ったことで、井出さんがプロデューサーというよりもひとりのアーティストとしての部分がノってきたのかなと思って。
井出 : そういう部分はあるかもしれない。僕の考え方がまとまっていれば良いわけで。
――それにしてもさまざまな〈Grand Gallery〉でのアイディアとか、とにかく前に進んでいるという印象を受けます。
井出 : 変に後悔するというよりも、いまの面子でできることはなにかっていうのをつねに考えていったほうがおもしろいっていうか。本当に、いま前しか向く暇がないし、過去のものも新鮮に思えるから使わせてもらっているだけで。
――前向き目線の過去を使うという。
井出 : そうそう。自分としては過去で飯が食えたら良いと思うんですけど、やっぱりがんばっていかないとご飯が食べれないからなぁ(笑)。そういうことをやってくしかないでしょ。
OTOTOYでは〈Grand Gallery〉のタイトルを多数配信中!!
PROFILE
井出靖
レーベル〈Grand Gallery〉主宰。80年代、ヤン富田、高木完、MUTE BEAT、いとうせいこう等と共に、現在のシーンを形成する音楽的動勢に常に深く関わってきたプロデューサー / アーティスト。90年代には、ORIGINAL LOVE、小沢健二らのデビューを助力。BONNIE PINK、クレモンティーヌの他、最近では、金原千恵子などのプロデュースを手掛けている。 現在のクラブ・シーンにおいても、FANTASTIC PLASTIC MACHINE、KYOTO JAZZ MASSIVE、MONDO GROSSO等と並んで、シーンを支え盛り上げてきたひとりといえる。2012年6月27日に、14年振りとなるソロ・アルバムを発売。ROAD MOVIEを見ているような映像美溢れるサウンドは今作でも健在。