2012/03/18 00:00

ハッキリと言えるよ、彼らの曲が今年の僕のフェイヴァリットだってね(オリヴァー・シム(The xx))

Trailer Trash Tracys / Ester

2012年最重要バンド、英ロンドンより現る! 美人女性ボーカルを擁する4人組、トレイラー・トラッシュ・トレイシーズが、英人気レーベルDominoの姉妹レーベルDouble Sixからデビュー!!

【TRACK LIST】
1. Rolling _ Kiss The Universe / 2. You Wish You Were Red / 3. Dies In 55 / 4. Engelhardt's Arizona / 5. Los Angered / 6. Starlatine / 7. Candy Girl / 8. Strangling Good Guys / 9. Black Circle / 10. Turkish Heights

遠い過去の音像たちが結ぶ、錯覚のごときサウンドスケープ

薄暗く輝く靄(もや)の先に、浮かんでは消える遠い過去の音像たち。現代がいったい何年代なのかわからなくなるような、錯覚のごときサウンドスケープ。

2009年の初シングルから難産の末に届けられたTrailer Trash Tracysの処女作『Ester』は、そのジャケットに象徴されるように、荘厳であると同時に畏怖の念を抱かせる音楽が詰まっている。「Strangling Good Guys」の空間に溶けていくような渾然一体サウンドに、My Bloody Valentineへの隠しきれない憧憬を見出したり、あるいは凛としたSusanne Aztoriaの声やぎこちないドラムマシーン風のリズムに、Cocteau Twinsの影を感じたりすることは、確かに容易い。しかし、そうした「いわゆるシューゲイザー/ドリームポップ」などといった捉え方にとどまっていては、このグループの懐の広さを見誤ることになりかねない。あえて音をぼやけさせ、ローファイにし、かつそこにあらゆる年代の音をフラットに配合していくことで、統一感のある一つの表現軸を確立しつつ、摩訶不思議なサウンドを展開させる。この音楽は、60年代的であり、80年代的でもあり、それ故に未だかつてない。ファースト・シングルである「Candy Girl」は、そのドラムの残響によってThe Ronettesの「Be My Baby」にまで遡ると同時に、The Policeの「Every Breath You Take」の残像さえも映し込む。優雅なメロディー・ラインが鷹揚に泳ぐ「Engelhardts Arizona」では、Slyの「In Time」のリズムボックスと、Van Halenの「Eruption」のタッピングを足し合わせたような邪術的なサウンドがうねっている。

このように書くとなんだかキワものめいて聞こえてしまうが、単なる因数分解のような分析ではこの音楽の本質は捉えられない。前述したような一見相容れない多様な音楽的要素が、白昼夢のようなエフェクトのもと、移動式遊園地の夜の風景のように不思議と統一感を持って、その怪しい魅力を放ってくるのだ。果たして、これが典型的なロックバンドのフォーメーションが奏でるサウンドなのだろうか? ここまで冒険的に、多彩に、変幻自在に演奏できるグループはそうそういない。あらゆる音楽が、Trailer Trash Tracysという渦の中へと飲み込まれ、吐き出されていく。

おそらく直接的な関係はないであろうが、その世界観は、UAと浅井健一という異色の邂逅であったAJICOに通ずるものがある。霧のかかった夢の中のぼんやりとした出来事のような「You Wish You Were Red」の、恍惚感と恐怖感が同居した不思議な感覚に顕著である。つまり、童謡や寓話が持つ二面性。透き通るような無垢さの中に潜む、極度な歪み。この音楽が孕むそうした魅力は、現在のUKインディー・シーンに限らず、広く見渡しても稀有な存在であるといえる。(text by 青野慧志郎)

RECOMMEND

The Pains Of Being Pure At Heart / The Pains Of Being Pure At Heart

My Bloody Valentine「Paint A Rainbow」をフェイヴァリットと公言しつつ、90's男女混声インディー・ポップの良質な部分も取り入れた、シューゲイズ・バンドと一括りにできない魅力を放つNYの4人組。大ヒット・シングル「Everything With You」、Slumberland RecordsのSplit EP収録で話題となった疾走シューゲイズ・ポップ「Come Saturday」、男女混声ヴォーカルが切ないComet Gain越えの名曲「Young Adult Friction」、モータウン・ビートの軽快な「A Teenager In Love」など、全曲インディー・クラシック化間違いない大傑作。

Atlas Sound / Parallax

絶大な人気を誇るUSロック・バンド、ディアハンターのボーカル、ブラッドフォード・コックスによるソロ・プロジェクトのサード・アルバム。過去2作が共にピッチフォークのベスト・ニュー・ミュージックを獲得する等、ソロ・プロジェクトとしては異例の称賛を受けているアトラス・サウンド。約2年ぶりとなる本作はブラッドフォード特有のドリーミーなサイケデリアから軽快なギター・サウンドで駆け抜けるロック・ソングまで多彩な楽曲を収録!ディアハンターが昨年リリースした傑作アルバム『ハルシオン・ダイジェスト』にも通ずる仕上がりとなっている。USインディー界随一の鬼才のキャリアを総括する新たな傑作の誕生!

Arctic Monkeys / Suck It and See

UKを代表するモンスター・バンドへと成長を遂げたアークティック・モンキーズの4thアルバム。本作はシミアン・モバイル・ディスコのジェイムス・フォードをプロデューサーに迎え、ロサンゼルスの伝統的なスタジオ=サウンド・シティ・スタジオ(ニルヴァーナ、マイケル・ジャクソン、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ等が過去にレコーディング)にて制作された。

Trailer Trash Tracys PROFILE

ロンドンで結成された女性ボーカルを擁する4人組。2009年に初シングルを7インチでリリースするやいなや注目を浴びる。ザ・エックス・エックスやザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート、ジーズ・ニュー・ピュ ーリタンズらインディー界きっての人気者の前座に大抜擢される期待の新人。ザ・エックス・エックスやコクトー・ ツインズを彷彿とさせる浮遊感に溢れる美しい世界観が高く評価されている。

[レヴュー] Trailer Trash Tracys

TOP