2011/04/16 00:00

Prefuse 73 / The Only She Chapters
本人が"album-as-female"と語り、女性をテーマにしたというこの異端な作品には、これらのヴォーカリストの他にも、UK在住の日本人イラストレーター、Yuko Michishitaや、写真家Angel Ceballosなどが制作に関わっている。本作『The Only She Chapters』のサウンドは、ビートやループを基盤とするものより、現代音楽のスピリットにより近づき、ピッチフォークの「Best Hope for 2010」に選ばれた注目のシンガーZola JesusやMy Brightest Diamond、そして今は亡きBroadcastのTrish Keenanなど多くの女性ヴォーカルがフィーチャーされている。

スコット・ヘレンになりたくて

00年代前半、懐古ではなく驚きを持って、他では得難い固有の響きと興奮をもたらしてくれたのは、間違いなくアンダーグラウンドのヒップ・ホップで、ちょうど二十歳くらいだった僕は、音楽は前進していくものだと思っていた。同じくまだ先鋭的な輝きを放っていたエレクトロニカ・シーンも、新しいタイプのB−BOY達とは兄弟や従兄弟くらいの距離感で繋がっていて、その証拠に僕が当時買ったヴァイナルは殆どCISCOテクノ店で掘り当てたものだ。ヒップ・ホップ店は確かすぐ向いにあったけれど、その中で流れる最新の曲はただのラップ・ミュージックで自分には少し違うと思っていたし、そこで買ったヴァイナルで僕の記憶にあるのは結局のところ旧譜も旧譜、THE CLASHの『COMBAT ROCK』だけである。このシーンには何人かの主要な登場人物がいたけれど、今は皆何をやっているのだろう。兎に角、僕が追いかけていた頃は極東においてもanticon周辺の全貌が明らかになってきたりと、ちょうどシーンとして成熟期に差し掛かる頃だったように思う。キー・パーソンの一人スコット・ヘレンが、Prefuse 73として表舞台に現れたのも割とそのようなタイミングだったし、それこそエレクトロニカとヒップ・ホップの融合と言った様な触れ込み文句をよく聞いた。Prefuse 73の『Vocal Studies + Uprock Narratives』を最初に聴いた時、まず単純にかっこ良かったのは言うまでもないけれど、評判通りの圧倒的な新しさを感じたし、エディットとカット・アップを駆使した楽曲は発明の域に近いと思った。スコット・ヘレンはこの一作にしてカリスマになったわけだが、2ndでは1stと同じ手法ながら、超絶クオリティでマンネリをねじ伏せる力業を披露、その実力を再証明した。バルセロナに移住したり自身のレーベルEastern Developmentを運営したり等、次々に男の夢を果たしていく様は明らかに選ばれた存在という感じがして、冴えない学生生活を送っていた僕は、生まれ変わったらスコット・ヘレンかWHY?かトミー・ゲレロになりたいと思っていたものである。

(c) Angel Ceballos 2011

変態扱いをされたアンダーグラウンドの面々がもはやスタンダードになり、宇田川町からCISCOが消えた00年代後半。僕もいつからかシーンの動向に耳を傾けなくなっていたが、今、久々に聴くPrefuse 73の新作は、スコット・ヘレンのアンビエント・サイドを担うプロジェクトSavath & Savalas名義のものだと告げられても、何も違和感がない。あのカット・アップとファットなビートは溶けてなくなり、女性ボーカルを全編に渡って多用しているこの作品を、スコット・ヘレンの成熟と取るか否かは、あの時新しいヒップ・ホップに熱中した各人が00年代後半をどの様に過ごしていったかで変わってくるのかもしれない。一つ言えることは、これまでのヒップ・ホップ的ループ構造から、より時間の流れを感じさせるダイナミックな構成へと変化し、プログレ的になったことである。エレキ・ギターの響きが先達DJ SHADOWの道程にも見出されるそれで、同様に成果を上げているのも興味深い。Savath & Savalasにみられるフォーキーなアレンジも相俟って、スコット・ヘレン版『ATOM HEART MOTHER』な今作が、このタイミングでドロップされたのは何の因果か。いずれにしても、スコット・ヘレンの中ではもうPrefuse 73Savath & Savalasで名義を分ける必要がなくなっている気がしてならない。もっとも、繰返し聴いていく内にそんなことはどうでもよくなってくる感じが既にしていて、恐らくは真夏の午後の曇天の下、スコット・ヘレンは我々の一歩先を進む男だという事実を思い出すことになるのだ。(text by 木村直大)

Prefuse 73の過去作を一挙配信開始!

Recommend

Radiohead / The King of Limbs

英国を代表する最も革新的なロック・バンドとして、揺るぎない評価と絶大な人気を誇るレディオヘッド。2007年『イン・レインボウズ』以来約3年ぶり、通算8作目となる待望の新作アルバムは、長年のコラボレーターでありバンドとともに数々の名作を生み出してきた、ナイジェル・ゴッドリッチが再びプロデュースを手掛けている。

Fugenn & The White Elephants / an4rm

永く語り継がれるであろう屈指の名トラック「Phonex」、「moon」、「Narcissus」を含む、超期待のビート・メーカー待望の傑作1stフル ・アルバム! Ametsubのピアノに対峙する、シンセを中心とした美しいコード・ワークの数々と、AphexTwinやAutecherの10年度版とも言える緻密かつスリリングなビートが高次元で重なり合い、エレクトロニック・ミュージックに新たな歴史を開く!


V.A / COSMOPOLYPHONIC

RLPとKez YMというCPRオリジナル・メンバーのコラボ曲「Six」で幕を開け、練馬のichiro_によるノイズ混じりのビート・サイエンスにFujimoto Tetsuroのコズミックなミディアム・フュージョン・ナンバー。diyTokionの黒汁満載のfonk、カナダの歌姫Sarah Linharesをフィーチャーしたmfpのデジタル・ビート。sauce81のコズミックなビート・ダウンで煌く宇宙を行き、TOKiMONSTAのエレクトロニックなナンバーで流星群を駆け抜ける。最後はKan Sanoによる美しいソウルフルなナンバーで幕を閉じる、全18曲。

PROFILE

Prefuse 73
10年以上のキャリアの中で、7枚のアルバムをリリースし、長きに渡ってヒップ・ホップ、アヴァンギャルド・ロックの最先端に立ち、最近ではミキシング、共同プロデューサーとして関わり、そしてツアーも共にするDaniel Lopatin(Oneothtrix Point Never、Games)やTV On The Radio、Ghostface Killah、Battles、Mos Def、Jose Gonzales、Blonde Redhead、Zach Hillなど数多くのアーティストとコラボレーションを重ねてきた。Herrenの存在が、インディペンデント・ミュージックのサウンド形成に深く関わっているのは明らかだ。

[レヴュー] PREFUSE 73

TOP